344 / 405

第344話

ボクは咲ちゃんに無理やり髪の毛を掴まれてそこから連れ出され、拓けた場所で待機していた黒服の男たちに向かって背中をドンッと突き飛ばされた。 『―――あうっ、』 『ホンット鈍間(ノロマ)な子、こんなお兄ちゃんなんか愛音いらないわ。アンタたちこの子を処分しちゃってよ』 『ですが咲ッ――いえ愛音さま、基さまはガキを見つけ次第、自分の元へ連れて来るようにと仰っていましたが?』 突然の彼女の命令に黒服の連中は躊躇う。互いに顔を見合わせて“でも”とか、“しかし”とか口篭ってざわざわしたかがその中のリーダー格だろう男の人が、毅然とした態度で咲ちゃんを否した。 髪をオールバックにしたその人は、辺りがもう暗闇に包まれているにも関わらずサングラスを掛けたままだ。 見え難くくはないのだろうかと思ったが、主に意見したのに涼しい顔をする。 もちろん命令に従わない黒服に咲ちゃんは顔を真っ赤にして怒り出したが、彼らの本元の主は叔父さんだからと彼女を何とか宥めてボクを連れて移動を開始した。 そしてボクが連れて来られたのは敷地内の中枢にある建物で、そこにはキズだらけだったけどコウちゃんのお父さんもいて、状況は変わらないのに何故かホッとする。 『―――千影くんッ!? どうしてここにっ』 『ごめ……なさいっ、コウちゃんのお父さん……ボク、見つかっちゃった……の』 彼はボクの姿を見るなり驚愕に目を見開いたが、怪我がないことにとりあえず安堵した様子だった。 腕を後ろ手に縛られその隣へと放り投げられたボクは、コテンと床に転がりながらもそこに座らされる。 それからボクらの前に叔父さんが仁王立ちになり、咲ちゃんが彼の腰辺りに抱きついてその顔を見上げた。 『ねぇパパ、早くこの子を処分しちゃってよ。私この子を見てるだけでムカムカしちゃう!』 『まぁ待ちなさい“愛音”、確かに腹の立つ存在だがこの子はまだ利用価値がある。《あのお方》も“生かせ”とのご命令だ』 『―――そんなッ!? 話が違うわっ、私の望みはすべて叶えてくれるんじゃなかったの!?』 ヒステリックに怒鳴りつける娘に叔父さんはだらしなく眉を下げると、「ごめんよ?」と申し訳なさそうに謝る。 でも()()は既に決定事項なのか、彼女が幾らゴネても覆りはしなかった。

ともだちにシェアしよう!