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第345話

『心配しなくても外にはもう二度と出さないよ、地下室で一生飼い殺しにするそうだ。生きてさえいれば五体満足じゃなくてもいいらしいしね』 叔父さんがそう付け足せば咲ちゃんは少し機嫌を直したのか、そっぽを向いていたお顔をまた父親に向け可愛らしく唇を尖らせる。 『だったら生きてるのも辛い目に合わせて! じゃないとわたし納得できないんだからッ!!』 『あぁいいよ、“愛音”の言う通りにしよう。僕もこの件で暫く地下に潜らなきゃいけなくなるから、直々に管理してあげるよ』 一見すれば可愛い娘に強請られた父親がデレているだけのように見えるけど、話す内容はとても恐ろしいものだった。 けれどボクはブルブルと震えながらも辺りを見渡し、この場に本物の愛音の姿がないか懸命に探す。それが気丈に振舞ってるように映ったのか、叔父さんに突然なんの前触れもなく頬を打たれた。 横にいたコウちゃんのお父さんは「やめろッ!」と叫び、縛られた腕のままボクに覆い被さる。 『フン、生意気なガキ! お前を見てるだけで兄さんを思い出して虫唾が走るよっ』 『お前たち兄弟の間に何があったのかは知らないが、この子は無関係だろう! それにいい加減お前も兄の要に執着するのはよせッ!!』 『うるさいっ、先に裏切ったのはお前じゃないか! 初めは僕と仲が良かったクセに兄さんが途中から間に入ってきて、いつの間にかあいつの色目に落ちて僕から離れていったんだろッ!!』 ボクの父親の名が出た途端、叔父さんは怒り狂ったように怒鳴り散らすと近くにあったパイプ椅子を引き倒した。 それでもコウちゃんのお父さんは説得するのを諦めない。自分は2人を天秤に掛けたことはないし、どちらか一方を特別扱いしたこともないと言い募る。 しかし怒りで我を忘れている叔父さんは聞く耳を持たず、辺りを歩き回りながら鼻息も荒く目についたものすべてをなぎ倒していく。 だがふと何か思いついた様子でニヤリと笑うと、コウちゃんのお父さんを上から見下ろすように眺めた。 『将騎、お前の処分をどうするか決めたよ。要兄さん暗殺を企てた首謀者としてこのまま警察に突き出す』 『―――なッ!?』 『ふふ、兄さんが射殺された現場で逃げるように倉庫を飛び出したんだってね? 彼処にいた連中はさぞ疑問に思っただろうな』 可愛さ余って憎さ百倍、叔父さんの顔はそう言いたげな表情だった。

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