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第346話
『ちょっ、待ってくれ基ッ! 俺はどうなってもいいっ、恨みを晴らしたいなら好きにしろ! だがその子と愛音ちゃんは解放してやってくれ! 頼むッ!! 基ィッ!!』
複数の黒服に取り囲まれ、拘束された腕を引かれて無理やり立たされたコウちゃんのお父さんは必死に抵抗しながら懇願したけれど、その願いも届かずそのまま何処かへと連れて行かれてしまった。
この部屋に残ったのはボクと叔父さんと咲ちゃん、それから数人の黒服だけとなる。嫌な静寂の訪れに固唾を呑んだ。
これからどうなるのだろうと不安にビクビクしていると、叔父さんが咲ちゃんのほうに向き直った。
『“愛音”は暫くウチの別荘に身を隠しているといい。母親のほうは元々病弱らしいから、その間に病死に見せかけて始末しとく。ほとぼりが冷めた頃お前は僕の手下でもある神埼と一緒にお祖父ちゃんの元へ行くんだ、いいね?』
『うんパパ、分かったわ!』
『あ、ソ レ ! パパと呼ぶのももう止めたほうがいい。今日から僕のことは「叔父さま」と呼びなさい』
叔父さんはそう言うと咲ちゃんがコクンと頷くのを見届け、今度は後ろに立つオールバックの髪の青年に目を向ける。
今後の彼女の面倒を見るよう言いつけると、別荘の鍵を手渡した。青年は無言のままそれを受け取ると咲ちゃんを抱き上げ、静かに頭を下げてから部屋を出ていった。
『さて、残すはお前のみか……』
叔父さんはボクに向き直ると蔑んだ眼差しを向ける。まるで心の底から憎んでるようなその冷淡すぎる瞳に、気がつけばボクは恐怖でおののき涙をポロポロと零していた。
決してまだ長くはない人生だけれどその中で、このような負の感情を明け透けに向けられたことなど未だかつてなかった。
いっそ滑稽なほどに憔悴し怯えるボクに叔父さんは愉快そうに微笑み、それを楽しむように腕を組んで眺める。
『お前には死ぬよりも辛い目に合わせるとあの子に約束したからね、兄さんの子に相応しい処遇を与えてやるよ』
『………あ……あの、叔父さ……本物のアイちゃん、は……何処? アイちゃんに会わせッ―――…!?』
その時、パシンッと乾いた音が静まり返った室内に響く。それが頬を叩かれた音だと気づくのに、ボクは数秒かかってしまった。
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