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第357話
ううん、正確には数年前にも1度会っている。
当時すでに記憶を弄られていた為、お顔を忘れてしまっていたけどあの時ボクを唯一外へ逃がしてくれようとした人も、本当は彼だったのだ。
てっきり拳銃で撃たれて死んだと思っていたのに、でもコウちゃんのお父さんは生きてた。それが分かっただけでも喜びはひとしおだった。
「やぁ千影くん、随分と待たせちゃったけどようやく迎えに来れたよっ」
あっという間にボクを拘束していた男二人をやっつけると、彼は支えを失くし腰を抜かしてぺちゃんと床にへたり込むボクにそっと手を差し出してくれる。
気がつけば両目からは涙が決壊ように、ポロポロポロポロととめどなく溢れ出ていた。
「コウちゃ……の、お父……さ……生きてた。良かった、ボク……ボク……ッ、ヒック」
「ムリに喋らなくていい、今は心のままに泣きなさい。もう誰もキミを抑圧したりさせないから」
恐る恐る伸ばした手をコウちゃんのお父さんはぎゅっと掴むと力強く引き上げてくれ、ボクの身体は彼の胸に勢いよく飛び込む。
そしてぎゅうっと抱き締めると、耳元で彼の深い安堵の息が聞こえた。やっと叔父さんからボクを取り戻すことができ、これで亡くなったボクの両親に顔向けができると……。
「あのさ、感動の再会を邪魔して悪いんけど俺のこと忘れてないかい? お二人さん?」
そう言って残っていた男の人たちを全員をたった1人で倒した健吾さんが、ボクたちの前に立つと腰に手を当てて苦笑する。その顔は少し拗ねたように顰められていた。
「あ、そだ……どして健吾さんも、コウちゃんのお父さんもここにいるの? 此処どこ?」
「話せば長くなるんだが……」
健吾さんの顔を見て今の状況を思い出したボクは、埋めていた胸元から顔を上げて上を見上げる。すると彼は今までの経緯を簡素にだが説明してくれた。
今回ボクの記憶を消したのは叔父さんの指示を受けた香住センセで、彼はその昔コウちゃんのお父さんが命を救った人だったのだそうだ。
だからその時の恩義を返す為にセンセは危険を顧みず、彼に連絡を取り計画の詳細を知らせてくたのだという。
「もっとも久住 は俺の息子をえらく気に入ったらしくて、今回命を狙われているあいつを助けたくて連絡を寄越したんだけどな」
「………? えと、久住ってだぁれ?」
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