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第358話

初めて聞く名前に首を傾げると彼はちょっとだけ困ったような顔をしたけど、ふとボクがまだ裸のままだったことに気がついて自分の上着を肩に掛けてくれる。 それからゆっくりと久住というのが誰なのかを教えてくれた。 「今は香住と名乗っているようだが、あいつの本当の名は久住(くすみ) ()()っていうんだ。昔キミの消息を探る為に潜伏した先で殺されかけてたところを助けた。それ以来あいつに妙に懐かれてね」 「フン、とか言って本当は満更でもないクセに……。彼が煌騎を気に入ったのだってどうせお前に似てるからなんだろう?」 茶化すように健吾さんが床に散らばったボク服を集めながら言うと、コウちゃんのお父さんは更に困ったような顔をする。 しかし彼が香住センセと接点があったのも驚きだが、先ほどからボクは健吾さんとの掛け合いが気になって仕方がない。 まるで旧知の友のように会話する彼ら二人は、一体どういう間柄なのだろうか? たぶんそれが顔に出ていたのだろう。二人はクスリと笑うと互いに顔を見合わせ、頷き合うとボクに向き合った。 「千影くん、今まで黙っててごめんよ。俺はキミの母親である千尋(ちひろ)の弟なんだ」 「…………う? んと、えと……ボクのお母さん……の、弟? 健吾さん……が?」 問うというよりは言われた言葉を理解しようと反芻するように声を発すると、二人は同時にコクリと頷く。 それを交互に見てボクはコテンと首を傾げた。 もちろん健吾さんの言った言葉はちゃんと理解できたが、ボクの記憶ではお母さんに身内はいないハズなのだ。 だからプルプルと首を左右に振った。 「お母さん、家族はいないって言ってた……ボクが生まれる前に死に別れたって……」 「なるほど、“死に別れた”……ね。頑固なあの人の言いそうな台詞だ。けど俺は正真正銘、彼女の弟でキミの叔父さんに当たる人だよ。ほら、これがその証拠」 健吾さんは徐ろに自身が身につけている銀色のロケットペンダントを首から外すと、それを開いてボクに見せてくれる。 そこには小さい頃のお母さんや健吾さんと思しき子供と、その子供たちを腕に優しく抱き締める女性が写った写真が嵌め込まれていた。 その中央に写る女性のお顔はボクのお母さんと瓜二つで、彼らが紛れもなく血を分けた家族なのだということを示している。

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