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第359話

じゃあホントに健吾さんはボクのお母さんの弟なの……? 半信半疑で顔を見上げると、彼は真摯な眼差しで見返しコクンと頷いてくれた。 「姉さんは要さん……千影くんのお父さんとの結婚をウチの両親に反対され、駆け落ち同然で家を飛び出したんだ。それに激怒した俺の父親が姉さんを勘当して、姉さんも意固地になり千影くんや愛音ちゃんが生まれても家に寄り付かなくなったというワケ」 「そう……だったん、だぁ……」 ボクが知らなかった真実を健吾さんの口から聞かされ、不思議な感覚に陥ったけれど何故か妙に納得してしまった。 彼の言う通りボクのお母さんは1度こうと決めたら人に何を言われようと、絶対に聞き入れないほどの頑固者だったから……。 それをボクのお父さんは笑いながらいつも見ていた。「母さんは仕方がないなぁ……」と言いながらその実、穏やかに慈しむように眺めていたのだ。 それを思い出すと胸がぎゅうっとなって苦しいけど、存在自体を忘れてしまうよりかはいい。時々は思い返して両親の思い出に浸れる喜びを、ボクはやっと取り戻せた。 コウちゃんのお父さんの腕の中で、そっと瞼を閉じ大好きだった両親のお顔を思い浮かべる。すると目尻から一雫の涙がポロリとこぼれ落ちたのだった。 「それから10年前に姉さん夫婦の訃報を聞きつけ、慌てて駆けつけたけどそこにはキミの姿も妹の愛音ちゃんの姿もなかった。いるのは自分を『愛音』だと言う似ても似つかない女の子がいるだけ……」 幼い頃から親の目を盗んではボクたち兄妹と遊んでくれていた健吾さんは、直ぐにあの子が『愛音』ではないと分かったという。 でも勘当された姉の嫁ぎ先を訪れるのは、幾ら実の弟と言えど流石にはばかられた。ならば本物の姉の子を見つけ出し、鷲塚に突きつければいいだけだとボクらを探し始めたらしい。 けれど何処を探しても見つからず、無駄に月日だけが流れていってしまった。 「白鷲の倉庫でキミを見た瞬間、自分の目を疑ったよ。あれだけ方々手を尽くして探したのにって……、でも後日こいつから連絡がきて経緯を知った」 “こいつ”と言ってコウちゃんのお父さんを指した健吾さんは、肩口に軽く拳を打ち付けて笑う。

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