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第360話

あの日ボクが逃げ出すきっかけとなった鎖が途中で切れていたり、外からしか開かないハズの重い鉄の扉が開いていたのもすべて彼の仕業だったらしい。 でも濡れ衣を着せられた身で一緒に逃げるのはリスクが高い為、健吾さんと煌騎率いる白鷲にボクを託したのだという。 逃げ回るよりいっそ煌騎のそばに置くほうが、よほど安全だと見越してのことだった。 案の定、人の目が集まる白鷲に保護されたことによって迂闊に手が出せなくなった叔父さんは、香住センセを使ってボクを誘き寄せることに成功する。 今回の目的はさっきの男の人たちが話していた通り、お母さんが施したという刺青を見ることにあった。 「ウチの技法は特殊でね、一子相伝だから姉さんが亡くなった以上いま彫れるのはもう俺のお袋のみなんだ。だからあいつは焦ってる」 あと数ヶ月後には鷲塚組組長の襲名式がある。実際に組を継ぐのはまだ先の話だが、それは同業者と組の者に顔と覚悟を知らしめる言わばお披露目会のようなものだ。 それまでにその技法と『絵』を盗み、そっくりそのまま“次期組長”の背中に模写しなければならなかった。 けれど彫り物は彫った技師によって現れ方が違う。先代のは単純に体温の上昇によって『絵』が浮き上がっていたが、ボクのものはお母さんオリジナルの技法が足されている為に見るのが難しいのだそうだ。 「千影くんはお母さんから何も聞いてないのかい?」 「うん……あ、でも……ボクの背中チクチクする時、確かお母さんッ……」 「―――その話、是非とも僕も詳しく聞きたいなぁ」 何かを思い出し掛けた時、突如背後から声がしてボクは慌ててそちらを振り向く。すると部屋の入口には怖いお顔をした叔父さんが静かに立っていて、その横には数人の男の人に取り押さえられた香住センセの姿があった。 センセは暴行を受けたのかお顔が酷く腫れている。それを見た瞬間、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 お顔の怪我はボクのせいだ―――…。 「相変わらず鼻の効く奴だな、お前は……」 罪悪感に苛まれ呆然とするボクの前にコウちゃんのお父さんが立ち塞がり、叔父さんに睨みを利かす。 そして背後には健吾さんが透かさず回り込み、もうひとつの入口からやってきた男の人たちと対峙した。

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