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第365話

そこまで考えてハッとする。 今の今まで健吾の独壇場のもと行動を制限されていると捉えていたが、指示を下しているのはあいつじゃないのかもしれないと俺は漸く思い至った。 健吾を陰で駒のように使えて大きい組織をいとも簡単に動かせる人間、そんな事ができる男を俺は1人しか知らない……。 「―――クソッ!! 今回チィの為に裏で動いているのは俺の父さんかっ!!」 「………バレたんなら仕方ない、お前はいま命を狙われているから動くなとの指示だ」 もし俺が目の前で殺されそうにでもなったら、チィは迷いなく身を挺して庇ってしまう。そうなっては助けられる者も救えなくなるから、今はジッとしていろと和之は言う。 しかし俺の記憶がないあいつがそんな事をする筈がない。そう返せば首を静かに横へ振られた。 「チィに記憶があろうとなかろうと、そんなの関係ないのはお前もよく知っているだろう! それにあの子に掛けられた暗示は健吾さんがもう解いてあるそうだ。記憶も徐々にではあるが戻りつつある」 「―――ッ!? そんな事をすればチィの精神が持たないんじゃッ―――…」 「大丈夫、正しい方法で解いたそうだから精神が崩壊する事はないらしい」 そう複雑な面持ちで言うと和之は肩を竦め、瞼を閉じてフーッと息を出し切ると気持ちを切り替えてまた目を開き、俺を見据える。 その顔はもう吹っ切ったかのように明るいものだった。まるでそうなる事が分かっていたかのような潔さに、健吾は事前にこいつだけには知らせていたのだと悟る。 チィを救う為に仕方がなかったとはいえ、俺は和之に何度も辛い選択をさせた。この償いはいつか必ず返さなければと、心の中で静かに詫びる。 「だったら余計に俺がチィを迎えにいってやらなければだろっ、あいつは極度の寂しがり屋だからな!」 「……………ふっ、」 不敵に笑ってみせれば和之もニヤリと返す。 それを合図に今までナリを潜めていた虎汰や流星、朔夜が漸く出番かと声を張り上げた。 「いつもの調子に戻るのおっせーよ煌騎!!」 「幾ら冷静になる期間が必要だったからって長ぇよ! 俺は待ちくたびれて死にそうだっつーの!!」 「フン……和之が勿体つけるから悪いんだろ、どのみち行く事になるんだからさっさと話してしまえばいいものをっ」 ゴチャゴチャと文句を言い出すこいつらの顔は、それでも晴れやかだった。

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