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第370話
俺たちの襲撃にまだ気づいていない敵チームの下っ端と思しき連中が数名、扉を挟んだ向こう側で呑気にもタバコを吹かし愚痴を零しているようだ。
先を急ぐこの状況下で虎汰がこうしてわざわざ足を止め、盗み聞きするということは余程こいつらが何か興味を惹く会話でもしていたのだろう。
俺は仕方なく片膝を床につけ、虎汰と雪の隣に身を屈め腰を落ち着けた。
「そういやお前ら、今回の計画内容聞いたか?」
「あ~、拉致ったあのガキに彫られてるっていう白粉彫 りを浮き上がらせるってヤツだろ?」
「感情によって浮き上がったり消えたりする伝説の刺青だって聞いたけど、そんなすげぇもんが本当にあんな小僧の身体のどっかにあるのか?」
刺青という単語に直ぐさま反応し、虎汰も雪も顔を上げ目線を合わせると俺のほうを向く。
しかし憶えのない話に首を振れば、2人は訝しむように眉を顰めてまた中の様子を伺った。
「何でもその伝説の彫り師の孫に当たるらしいぞ、あのガキ……」
「うっそ、マジかよッ!? 全然見えねぇんだけど」
「だろ? でも上はそれを確かめる為だけに白鷲のトップをおびき寄せて、そのガキの目の前で殺す計画を企ててるらしい」
なるほど、それでかと俺は自分が狙われている理由をこんなところで知る。だが聞けば聞くほど腑に落ちない事だらけだった。
墨を身体に1度でも彫ればその痕が必ず肌に残る。でもチィにはそんな刺青の痕跡など微塵もなかった。
もしも本当にそんなものがあいつの身体に彫られているのなら、毎日一緒に風呂に入っていた俺が見逃す筈がない。
奴らは眉唾ものの情報に踊らされているのかと思った矢先、中から信じられない内容の話が飛び出した。
「こんな面倒くさい事しなくてもさぁ、あのガキの妹が手に入ってるんならそっちで良かったんじゃないか。その妹にも刺青はあるんだろ?」
「それが今は行方が分からないらしい。10年前に1度捕らえたんだが中国に輸送中、何者かに強奪されたって話だ」
「はぁっ!? 基さんからものを奪うとかそいつら、余程のバカじゃねーの!? つか何処の組織だよ」
「それがかなりのデカい組織だったらしいぞ。俺も噂で聞いただけなんだが、何でもロシアのマフィアが関係してるらしい」
「――――ッ!?」
驚愕の事実に俺は耳を疑った。
まさかここであ の 人 と繋がるとは……。
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