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第373話

インカムで朔夜に現在位置を確認すれば、俺と虎汰と雪が今いる場所から壁を挟んだ向こう側にチィがいるという。 和之らもすぐ近くまで来ているらしく、俺たちが切り開いた道を辿れば(じき)に追いつくとの事だった。 『分かっているとは思うが煌騎、くれぐれも先走るなよ? お前は命を狙われているんだっ、チィの為を思うなら絶対に無茶はするな!!』 そう和之に念を押すように言われ、俺は見えないと分かっていても苦笑を浮かべずにはいられなかった。こいつとは長い付き合いなだけあって、本当に俺の性格を熟知している。 普段の俺なら和之らの到着を待って乗り込んだほうがより安全で、確実にチィを救い出せるという事が直ぐに導き出せ、その通りに行動できるのだが……。 しかしあいつの事となると冷静さを欠き、後先考えずに突っ走りたい衝動に駆られるから厄介だ。 臆病で怖がりな癖に誰とでも直ぐに打ち解け、仲良くなる事ができるチィがまた心無い連中に傷つけられ、酷い目に合わされていないかと心配で堪らなくなる。 とその時、壁の向こう側から声が響いてきた。 『―――そんな事させないからッ!! ボクの命に替えても煌騎は守ってみせるんだからぁッ!!』 「――――ッ!?」 今の叫び声は紛れもなくチィの声だ。俺は虎汰や雪が止めるのも聞かず、瞬時に駆け出すと扉を蹴破る。 その先には一際大きな上下に可動する倉庫のシャッターがあり、そこには恐らく見張りだろう数名の敵チームがこちらに背中を向けて立っていた。 他は見当たらず既に中にいるようで、喧騒が俺のところにまで届き頭に血が登る。 瞬殺でその見張りを再起不能にし中へ駆け込めば、中央には背中の違和感に戸惑い己の身体を抱き締めているチィと、その崩れ落ちそうな身体を腕で支え立っている約10年ぶりの父さんの姿があった。 その2人を守るように健吾が前に立ち、周りを取り囲む敵チームの連中と拳を交え応戦している。そしてそれらを壁際で見守るひとりの男を見つけ、俺は驚きに目を見開いた。 そいつの顔は忘れもしない! かつて父の親友であり、チィの父親でもあった男、 “鷲塚 要”その人がそこに立っていた―――…。 だが何故ここにいるッ!? “あの人”は10年前に死んだハズだッ!!

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