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第375話

チィの父親らしき男はそれを見るや苦虫を噛み潰したような顔をしたが、直ぐに気を取り直し父さんの腕の中で震えるチィに視線を戻した。 「まぁいい、煌騎くんを殺す理由はもうなくなったからね。将騎ッ、その子を渡して貰うよ!」 男が言うや否や敵対するチームの奴らが一斉に父さんのほうへと襲い掛かる。近くにいた健吾が前に立ちはだかるが多勢に無勢で必死の抵抗も虚しく、チィは腕を掴まれ強く引っ張られてしまった。 その衝撃で肩に掛けられた上着がはらりと床へ落ちる。 「やっ、見ないでぇッ!!」 「「「――――ッ!?」」」 俺たちは自分の目を疑った。 咄嗟に身体を隠そうとしたチィの傷ひとつない真っ白な背中には、息を呑むほどに美しい真紅の薔薇がいっそ禍々しいくらい艶やかに浮き上がっていたのだ。 しかも棘のある蔦が腕や胸元、腰の下の丸みのある尻にまで伸びていて、まるでその薔薇がチィ自身を守っているかのようだった。 しばらく時を忘れて俺たちはそれに目を奪われていると、室内に不釣り合いなカシャリという不躾な音が響き渡りようやく我に返る。 見ればチィの父親らしき男がスマホ片手に、その美しいチィの薔薇を連写していた。 瞬発的に虎汰が動きそのスマホを奪いにかかるが、するりと躱され周りの護衛を盾に後ろへと退かれる。 雪も加わり尚も追跡するが、間に人垣が増える一方で奴にはまったく近づけない。このままでは逃げられると焦りが見えた時、俺たちが入ってきた入口から和之と流星が到着し奴らの行く手を塞いだ。 「―――あっ、クソッ!? 何をする! 僕に気安く触れるなっ、離せこのクズがッ!!」 「ばーか、離すワケないだろが!」 「……ふぅ、出遅れたと思ったけどコレで少しは挽回できたかな?」 後方は手薄だった為に容易くチィの父親らしき男を流星が取り押さえ、その手からするりと和之がスマホを奪い取り皆がホッと胸を撫で下ろす。が、次の瞬間 ―――ズダアアァァーンッッ!! 広い倉庫内に銃声が鳴り響いた。 あまりの騒音に身を竦め次に顔を上げれば流星は左腕を押さえ、顔を苦痛に顰めてその場に崩れ落ちる。 それでも意地で奴の拘束を解かずにいると、何処から湧いたのか黒服を着た男たちが現れそのうちのひとりが流星の傷口を蹴り上げ、悶絶したところを突いて主を取り返した。 そして奴の周りを囲い俺たちに銃口を向ける。

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