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第376話

「ふん、忌々しいガキ共がッ! この借りは必ず返すからね!!」 負け惜しみとも取れる捨て台詞を吐くと、男は手下に護られながら逃げるように倉庫を出ていった。 優心と大地は透かさずその後を追おうとしたが、それを見計らったようにスッと2人の前にひとりの外国人が現れ立ち塞がる。 『今は追わなくていい、外には部下を配置してある。それに……ここからは大人の領分だ』 背の高いアッシュブロンドの髪の男はロシア語でそう言うと、チィの父親らしき男がその場から立ち去るのを静かに見送った。 その間も優心や大地は何とか後を追おうと試みるが、男の放つ無言の圧力にたじろぎ冷や汗をかいて断念する。 そして完全に奴の後ろ姿も見えなくなると男は中を覗いて誰かの姿を探し、皆が呆然と見守るなか悠々と倉庫内へ入ってきてチィの前に立った。 敵対するチームの奴らは首謀者が逃走を図った上、突然現れた謎の外国人に警戒心丸出しで威嚇し出す。 だがその男は其方に関心がないのか完全に無視し、仕立ての良さそうな紺色のスーツの上着を脱ぐとその場に屈み、怯えて縮こまるチィの肩にそっと掛けた。 それから優しく両腕を抱くとゆっくりチィを立たせ、父さんのほうを振り返る。 『すまないが将騎、通訳を頼んでも?』 『あ……あぁ、つか来るのが遅ぇよアレク!』 『フ、悪いな。日本の地理は不得意で道に迷った』 『嘘ばっか言うな、ただ様子を見てただけだろ』 父さんはその男と2~3言葉を交わすと呆れた顔をしたが、敵対するチームの連中に大人しくこの場から撤退するよう進言した。 これ以上ここに残っていてもお互い何の利益にもならないし、この男を敵に回すと後々厄介だぞとさり気なく脅してとりあえず奴らを追い払う。 納得はしていないだろうが明らかに堅気ではない外国人の介入で尻込みした連中は、すごすごと倉庫内から出ていった。 『ふぅ、これでやっと落ち着いて話ができるかな?』 清々したと言わんばかりに溜め息を吐く外国人に、もちろん先程から言葉はまったく分からないがそのニュアンスと雰囲気で推察し苦笑する。 すると男はこちらに視線を向けてニコリと微笑んできた。友好的に振る舞う相手にしかし同性に微笑まれて喜ぶ趣味など持ち合わせていない俺は、訝しむようにして男を睨み返したのだった。

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