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第378話
そして強引に腕を引かれ、ほぼ強制的にチィの背中に手を置かれる。するとそこは熱を持っているのか尋常じゃないほどに熱く、彼の身体がいま異常をきたしているのだと気づく。
後はもうダメだった……。
1度触れてしまったら己の抑圧していた気持ちが一気に溢れ出てきてしまう。チィが苦しそうに顔を歪め、涙を流しながら発作の時のように短く呼吸を繰り返しているのを見て俺は諸手を挙げた。
「やっ、ダメ……煌…騎……見な…ぃで……」
「チィ大丈夫だ、もう大丈夫だから……落ち着け」
興奮する彼を落ち着かせる為に掛けた言葉が、情けなくも掠れて震える。寧ろ大丈夫じゃないのは俺のほうだなと、心の奥底で自分を嘲笑った。
愛する者に触れただけで俺の心や身体は喜びの声を挙げる。彼の事が堪らなく好きだと魂が叫んでいた。
なのにチィはまるで拒絶するように俺の腕を払い除け、首をがむしゃらに左右へと振った。途端に胸が張り裂けそうになり、ぎゅっと掴まれたように締め付けられ苦しくなる。
何故だッ、どうしてチィは俺を拒もうとするッ!?
縋る思いで顔を覗き込めば彼は泣きながら謝った。自分は俺に触れて貰えるような綺麗な身体じゃないからと……。
とうの昔に大勢の男たちの手によって穢され、薄汚れてしまっているから触って欲しくないと言う。
「馬鹿を言うなッ! お前はちっとも穢されてなんかいない! お前のどんな時も決して折れない気高き心は誰であろうと穢しはできないんだ!!」
「でもっ……でもっ……ボクは好きになっちゃ……いけなかった……ボクが…みんなを……狂わせた! 煌騎ッ、ごめ……好きになって……ごめ…なさいッ」
「―――なッ!? ふざけるなッ!!!」
「………ぅ?………煌…騎………?」
彼の言葉を聞いた瞬間、俺は怒鳴っていた。
すべては己が元凶だと思い込むチィの心がとても哀れで悲しかった。
いや、小さい頃から”あの男“にそう刷り込まれて生きてきたのだから、仕方がないと言えば仕方ないのかもしれない。
だが本当はそうじゃないのだと、想う気持ちは自由で誰にも止める権利はないのだと、チィに教えてあげたかった。
それができるのは、この世で唯一彼に想われているこの俺だけの特権だッ!!
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