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第379話
「チィがその気持ちを否定したら、俺のこの想いはどうすればいいッ!?」
「……ぇ……あ、あの……」
「1度はお前の為に諦めようとしたッ! けど、やっぱりダメだった。心が膿んだようにジクジクと痛む俺の心は……一体どうしたらいいんだよッ!!」
「………ぅ…ウソ……」
声の限りに叫べば目の前のチィは突然の事に戸惑い、大きな瞳を更に大きく開いて揺らしている。まるで信じられないというような反応……。
その様子を見て俺はようやく己の失態に気がついた。
―――俺は1度でも自分の気持ちをチィに伝えようとした事があっただろうか……?
キスをしたのだって発作の対処法として半ば無理やり唇を奪ったようなものだし、出会ったあの日に性別を間違えたせいで再会を果たした際、あいつを”愛音“だと思い込み気持ちを封印した。
”あの女“が俺に異様なほど執着しているのなら、チィから離れなければと思ってしまったのだ。
その事に気づき愕然とする。
俺は今まで何をやっていたのだろうと死ぬほどの後悔と、気持ちの一欠片でも伝えていればチィを苦しめずに済んだのにという罪悪感で胸が締め付けられた。
俺は直ぐさまその場に片膝をつくと手をそっと差し伸べ、チィの顔を仰ぎ見た。
そして切実に訴えかける。俺がどんなにこいつを大切に想っているかを……。
「ごめん、チィ……愛している」
「………ウ…ソ、嘘だぁっ……こんな穢れた…ボクが、好かれるっ……わけ……ない……もんっ」
「チィ……チィッ! こっちを向いて?」
混乱するあまりその場を逃げようとするチィに俺はできるだけ優しく声をかけ、自分のほうに視線を戻させる。
そして想いの丈が伝わるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「信じて貰えないかもしれないが俺が愛しているのはこの世でたったひとり、お前だけだよチィ……お前を心から愛してるんだ」
「……ぅ、ふぇぇぇっ……煌…騎ぃ……ボクもっ……ボクも煌騎のこと…好きなのぉ……」
感極まってチィが男の腕から抜け出し、俺の胸に飛び込んでくる。その拍子に上着ははらりと床に落ちたが気にはしなかった。
そのままチィを優しく受け止め、熱を持った背中を労るように撫でてやる。すると周りが感嘆の息を洩らした。
皆が視線を注ぐ先を見ればチィの背中にあった紅い薔薇は白へと変わり、あれほど禍々しく艶やかだったそれは清楚で慎ましやかな印象に豹変したのだった。
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