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第385話

今日の彼はいつになくボクを甘やかしてくれる。まるでふわふわの綿菓子のように激甘だ。 それが嬉しい反面、甘え過ぎちゃわないか心配になりボクは伸ばしかけた手を宙に彷徨わせた。 今までいい事があった後には、必ずといっていいほど痛いことが待っていたから……。 監禁されてた時『()()()()』の中にはたまに優しくしてくれる人がいて、それが『管理者(叔父さん)』に見つかる度に怒られて折檻されたのだ。 その時の打たれた痛みが蘇ったボクは彷徨わせていた手をそのまま膝の上に戻すと、瞼を閉じ堪えるようにぎゅっと握り拳を作る。 そしたら煌騎がその拳を上から握ってくれて、真剣なお顔でボクを覗き込んでくれた。 「チィ、俺に甘えるのを躊躇うな」 「………う? でも…あの……」 「千影くん、その事に関しては遠慮することはないんだよ? そいつは好きでキミの世話を焼いているんだから、キミは充分に甘えていなさい」 ボクが躊躇っていると横から煌騎のお父さんが諭すようにそう言ってくれ、嬉しそうにニコニコと微笑む。 煌騎も自分の父親の言葉を受け苦笑いはしたけど、否定するつもりはないのかそれに同意してコクリと頷いた。 「………あのさ、さっきから気になってたんだが煌騎の親父さん、チィのこと”千影“って呼んでるよな。もしかしてその名前……?」 健吾さんに大人しく治療を受けていた流星くんが、不意に煌騎のお父さんに声を掛ける。そのお顔は痛みで歪められてはいるが、期待に胸が膨らんでいた。 そうだ、彼らにまだボクが過去の記憶が戻った事を説明していない。その事を思い出したボクは、流星くんや隣の煌騎にニコニコと微笑みながら報告した。 「あ……えと、あのね? ボク昔のこと思い出したの。ボクのお名前は鷲塚 千影、煌騎たちのチームの初代副総長だった鷲塚 要の息子なんだよ」 「―――え、マジかよッ!? あれ、でも鷲塚の跡目には確か一人娘しかいなかったんじゃ……」 流星くんは驚愕し目を大きく見開く。でも直ぐに首を傾げ、確認の為に煌騎のほうを見た。 その視線を受けた彼は頷くと眉間に皺を寄せ、自身の父親を睨みつけ問い詰めるように尋ねる。 「俺も昔あんたにそう聞いた。だからこそチィの正体が分からずにいたというのに、どういう事だ?」 「………あぁ、それな」 すると煌騎のお父さんは、とてもバツが悪そうなお顔をして頭を掻いた。

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