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第396話
初めて食べる味と食感にボクはグラスを持つ手とは逆の、もう片方の手で自分の頬を包み込んだ。
「ほっぺた落ちそうなくらい美味しいっ」
「はは、それは大変だ。なら頬が落ちる前にいっぱい食っとかないと、ほら」
「うん! あむっ、モグモグ……ん、煌騎も食べて?」
ボクにばかり食べさせて自分は終始グラスを傾けている彼に、コテンと首を傾げお顔を覗き込めば困ったように眉根を下げられた。
煌騎はいつもお酒を飲む時は、殆ど何も食べないのだという。
だから自分のことは気にせず食べろと言うけどボクはどうしても一緒に食べたかったので、彼の真似をしてその手からフォークを奪い団子状のものを2~3個刺してから口元へと運ぶ。
「はい煌騎っ、あーん?」
「参ったな……ん、確かに美味い」
「フフッ、でしょ? ボクも煌騎と食べれて嬉しいの」
ちょっと強引かなと思ったけど逡巡したあと彼はあっさり食べてくれたから、ボクも上機嫌でグラスを傾けた。
甘いぶどうのジュースを飲みながら食事を食べ進めていき、時々煌騎と目線を合わせてクスクスと笑い合い目尻や頬に優しくキスを落として貰う。
会話こそ少なかったがそうして摂った彼との食事は本当に楽しかった。最後のぶどうジュースを飲み干し、グラスをテーブルの上に置くと煌騎の大きな手が徐ろにボクのお腹を擦る。
ん? と首を傾げれば彼は目を細めて笑った。
「今日も腹いっぱい食えたか?」
「うんっ、ボクたくさん食べたの!……ヒック」
「そうか、チィが満足そうで何よりだ。だが少しワインを呑ませ過ぎたみたいだな、目がトロンとしてる」
煌騎はそう言うと瞼の上にチュッて触れる程度の軽いキスを落とす。
半分くらい閉じかけていた目はそれで完全に閉じてしまい、全身の力が抜け彼の胸に預けきった状態のボクは目の前の首元に腕を回しゴロゴロと擦り寄った。
「煌騎ぃ、とってもふわふわするのぉ」
「あぁ、そのようだな」
彼のキスが心地よくてクスクス笑うと彼も釣られて笑い、更にキスを雨を降らせてくれる。
だけどそれだけじゃ物足りなくなってきて、ボクは自分から煌騎の唇にそれを重ねた。すると透かさず彼の熱い肉厚な舌が口内へと入ってくる。
それは先ほどまで飲んでいたぶどうの芳醇な香りと味が染み込んていて、気がつけばボクは夢中で吸ったり自分の舌を絡めたりしていた。
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