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第397話
「ん……チィ……今日は色々あって疲れただろう? 風呂入って汗を流したらもう寝よう」
ぴちゃぴちゃと艶かしい水音が室内に響く中、不意に煌騎が唇を離したかと思うと顔を上げてこちらを見下ろす。
その目は何処か気遣わしげに揺れていた。
けれど長いキスで酸欠状態となっていたボクは、食後に必ず襲ってくる睡魔とも相俟って何を言われたのか分からず、舌を突き出したまま呆然と固まる。
「う? んと……んと……?」
「風呂だよ、さっきお前の妹が出ていく時ここのはデカくて広いと言ってただろ。本当に泳げるかどうか、試したくはないか?」
「わぁ面白そうっ! うんっ、ボクそれ試すぅ!」
上手く回らない頭で必死に考え、『お風呂』という単語を導き出せたボクはぱあっと顔を綻ばせた。
監禁されていた時は季節関係なく水風呂に入れられていたから大嫌いだったけど、煌騎に拾われてからは暖かいお湯に肩まで浸かり、良い香りのする泡で全身を洗って貰えるので今では大好きだ。
そのお風呂に入れるとあって嬉しさのあまりコクコク頷けば、煌騎はボクの頭をひと撫ですると膝の上から下ろし椅子に座らせ「湯を張ってくる」と言い残し部屋を出ていってしまう。
置いていかれるのかと思って慌ててそのあとをついて行こうとしたが、直ぐに戻ってくるから大人しく待ってろと言うのでボクはそわそわしながらも言いつけを守ってジッと待っていた。
暫くすると言葉通り直ぐに煌騎が戻ってきて、お利口さんと言ってまた頭を撫でてくれる。
そして脇に両手を差し込んでボクの身体を軽々と抱き上げた。
「待たせたな、さぁ行こう」
「うんっ、あ……でも着替えないよ!? どしよ、ボクお風呂から出たらすっぽんぽん?」
歩く振動に揺られながらでもふと肝心なことを思い出し、あっと声を上げて口元を両手で覆う。
大変だと思い自分より下の位置にあるお顔を見下ろすが、煌騎は慌てた様子も見せずに構わずどんどんとお風呂場まで歩いていく。
でもあまりにボクが心配するので途中歩く足をピタリと止め、困った顔をしてこちらを振り返ってくれた。
「心配するな、風呂場には備え付けのバスローブがある。それに室内は空調管理してあるから例え裸で寝ても風邪なんか引かない」
「そなの!? じゃあ煌騎はそのバス何とかっていうのを着てね、ボクはすっぽんぽんでもへーき!」
とてもいい案を思いついたとニコニコする。
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