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第400話

「少し酒を呑ませ過ぎたようだな、チィ大丈夫か? 吐き気がしたり気分が優れないとかはないか?」 「ん~、だいじょぶだよ煌騎ぃ。さっきから身体がふわふわしてなんだか気持ちぃの♪」 ボクを受け止めてくれた煌騎が心配そうにお顔を覗き込んでくるので、なるべく明るいお声で返事をする。だけど心配症の彼は尚も様子を伺い、体調の変化を読み取ろうとつぶさに観察した。 その間ボクは泡のせいでまだ目が開けられないのでそれを訴え、なんとか髪を洗い流して貰ってから漸くパチクリとお目目を開ける。 「煌騎ボク、ホントにだいじょぶだよ?」 「あぁ、分かってる。だが今は大丈夫でも風呂に浸かって体温が上がれば更に酔いが回るからな……。もう風呂から出るか」 「う~、もうちょっとお風呂入ってたい……ダメ?」 縋るように潤んだ目で彼の見つめてお伺いを立てれば、煌騎は何とも言えないというようなお顔になり眉根が下がった。 それはボクのワガママをなんでも叶えてくれる時のお顔だ。無理を言っているという自覚はあるが、今日だけは引き下がれない。 だって念願だった煌騎との洗いっこがしたいのだ。普段はして貰う事の多いボクが彼にしてあげる唯一のチャンスがやっと訪れたのに、どうしてもそれを手放したくはなかった。 切実に訴え続けると折れてくれたのか、煌騎がニッコリ笑ってボクの頭をポンポンと撫でてくれる。 「仕方ないな、本当に気分が悪くなったら隠さず俺に言うんだぞ?」 「うんっ、じゃ早く入ろ♪ ボク泡風呂初めて~♪」 許しを得て嬉しくなったボクはキャッキャと大はしゃぎし、彼の首元に腕を回してその逞しい胸板に縋り付く。 煌騎はそんなボクを見てクスクスと苦笑いを浮かべたけど、そのまま身体を抱き上げて浴槽に連れていってくれた。 慎重に片足を浴槽に入れて跨ぐと段差のあるところに腰を落ち着け、自らの膝の上にボクを座らせる。 泡で全身は包まれたがお湯はちょうど腰の位置にきて、これなら逆上せる心配もない。 優しい気遣いに感謝しつつ、ボクは目の前にある泡を両手で掬って背後にいる煌騎を振り返った。 「この泡も薔薇の香りがするよっ、いい匂いだねぇ」 「オイルが入ってるからキメも細かいな。チィが気に入ったならウチにも取り寄せてみるか」 そう言って彼も微笑んでくれるから、ボクの幸せ指数はドンドンと上昇していく。

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