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第2話

 大切にされ、父に愛されている母を見て、心が冷たくなるのが分かった。  母は吉田家の分家。生まれた時から父との結婚を約束されていたから大切にされてきた。  Ωの本質を分かっていないのだ。あいつらは、下種だ。甘い匂いで誘惑しようとしてくる。  繁華街で体を売っている女たちもほとんどΩだ。  父が差別を嫌うので、吉田家の使用人の半分はΩだが、あいつらは跡取りである私を何度も誘惑しようとしてきた。  未来あるこの私を、薬も飲まずに発情し襲ってきた馬鹿もいる。あの誘うような臭いが、下品で大嫌いだった。  自分で、上品で淑やかで心が癒されるような相手を探して、Ωなんか遠ざけたかった。 「橘兄さま」 「蓮華」  廊下の曲がり角から飛び出してきたのは、妹の蓮華。齢16歳になろうとしたところか。発情期も迎えていない妹は、あの下卑たΩであるとは思えないほど純粋で、朗らかで美しかった。  生まれた時に既に分家のαの男と婚約も決まっていたが、幼馴染みのせいか仲睦まじく、まるで両親を見ているような錯覚に陥る。 「橘兄さまのお嫁様、とっても可愛らしい方です。私も学校が同じなの」 「……学校が同じ?」 「大丈夫。Ωは親の承諾があれば16歳で嫁げるのよ。私ももう一か月もしたら、結婚できるんですから」 「そうか。……私はどうもこの古臭い習慣が嫌でね。自分で結婚相手を選びたかった」 「お兄様は、選び放題でしょうね。母様に似て整って凛々しい顔立ち、身長だってお父様より高くなって。大学も主席で入学、卒業。おまけに妹にとても優しい完璧で自慢の兄さまなんだもの」 「……褒めてもなにも今は持ってないぞ」  苦笑したが、蓮華は本当にただ純粋な気持ちで褒めてくれたらしい。  私の本当の心も知らずに。  昔から期待されてきた。成績がいいのも当たり前だと言われてきた。  自由などない退屈な中、偽善行為で下種なΩを娶らなければいけない。  私の心は誰よりも醜い。自由のない時間の中で、笑顔の裏で悪態を付く癖がついている。  この裏の顔を死ぬまで隠さないといけないのが億劫なだけだ。

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