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第3話
*
三日経ち、婚礼は親族だけでひっそりと行われた。
白無垢が大きく見えるほど華奢で、一度もこちらを見ない相手に、私も一度も目を合わせなかった。
名は、白鳥一宮。古書、骨董品屋を営む白鳥家は、分家でも分家筋でもない。うちの金貸しの方の客だ。貴重な古書を金を借りてまで買い取るようなおかしな奴らで、うちとの力関係は明白である。借金を白紙にするかわりにΩの娘を差し出せと言われたに違いない。
婚礼の儀式の間、隣の娘はずっと震えていた。こんなに細くて骨と皮しかない女を、私は愛せるのだろうか。いや、愛す演技ができるのだろうか少しだけ不安だった。
*
婚礼が終わり、ここからは三日間、本家跡取りの私と嫁は離れでお互いを知るために籠る。
嫁であるΩの乱れた声を、ほかのモノが聞くのは許せないという独占的な理由からだが、私は違うと思っている。
三日でさっさと長男を孕ませれば、その後は夫婦ごっこしていればいい。たった三日我慢すればいいという、今後の自由を手にする機会だと私は思っている。
面倒だが、ここまできたら嫁を抱くしかない。
「入るぞ」
離れの一番の寝室の廊下から声をかけた。
すると廊下からでもわかる甘い匂いに、障子を開けようとしていた手が止まる。
下品な発情した匂いではなく、雨の日の濡れた花のような匂い。
警戒していたら中から障子を開けられた。
「旦那様。すいません。本来なら僕が開けなくてはいけないのに」
「……僕?」
少し低い声に眉をしかめると、おびえたように体を揺らした。
「私、です。すいません。今日から私、です」
「お前、男なのか」
顎を乱暴に持ち上げる。
すると化粧され真っ赤な唇を震わせているが、まだ幼さが残る少年だった。
「吉田家にΩが生まれず、それならば年若く、そして家の救済ができると私が選ばれたようです」
「お前はそれでいいのか。……男だろ」
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