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第8話

* 「お兄様!」  その夜は、会合で遅くなった。一宮には寝ていていいと伝えたが、彼ならば起きて待っているかもしれない。そう思い、日付が変わる前になんとか帰宅した。  だが帰宅を待っていたのは、妹の蓮華だった。険しい顔をして仁王立ちしている。  執事にコートを渡し、ネクタイを緩めながら妹のご機嫌をとる方法を浮かばせながら近づいていく。 「どうした?」 「お兄様……少し一宮さまに乱暴じゃありませんか?」  廊下で話す話ではないと、誰もいない居間に移動する。  妹はソファに座った私の隣に座ると、小声で私を非難した。 「一宮さま、学校でも保健室に行くか、顔色が優れないわ。この前は、微熱があるからと早退していたのよ」 「……それは知らなかった」  体を合わせる以外、一宮のことを知らなかった。彼の学校生活や、普段何をしているのか、また何が好きなのか。妹に言われるまで何も知らなかった。 「彼の腕に、アザだってある。白くて繊細な彼の手を強く握らないとできないアザだったわ。彼はΩでしょう。どうして大事にしてくださらないの」 「大事にしているだろ。毎日贈り物で部屋を埋め尽くしている。部屋だって一番日当たりのいい、誰も来ない静かな場所。金も身に着けるものも、彼に何一つ不自由にさせていない」 「いいえ。自由が何ひとつないわ。お兄様はおかしい」  意見を引こうとしない妹をにらむ。が、それでも彼女は私をにらんでいた。 「本家の跡取りであるお兄様に意見をするのは、おこがましいとは思ったわ。でも彼、さっき泣いてたのよ。実家から離れてきっと心細いの。それなのにお兄様は分かっていないでしょ」 「……わかった。私が悪い」  女の小言は、尽きることがない。ここで折れるのは私の方だ。  それに泣いているのならば、そばにいてやらねば。 「今日はゆっくりさせる。一宮にも聞いてみよう」 「優しく、です。一宮様は私と同じ、まだ17歳なんですから。優しくお願いいたします」  まだ言い足りなさそうだったが、私が非を認めたことで無理やり溜飲を下げると、自室へと帰って行った。  *

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