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第10話
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次の夜、帰ると部屋に彼の姿はいなかった。
「一宮を知らないか?」
執事に聞いたが、彼は探しましょうと書類を整理していた手を止め、廊下に共に出てくれた。彼の話によれば、今日は部屋から出ていないらしい。食事は三食届けたが、きれいに食べていたと言っていた。
「きゃあ」
蓮華の悲鳴を聞き、そちらに目をやると、鯉を放っている池を見て、座り込んでいた。
すぐに駆け寄って池を見る。池はそんなに深くない。小さな橋をかけているが広さもそんなにないだろう。ただ見栄えのためだけに庭にある。
その池に、私が送った贈り物が浮かんでいる。筆、書物、着物、スイーツ、花束。
その贈り物の中心で一宮が人形のように浮かんでいた。
「一宮!」
「救急車を」
執事の声と蓮華の悲鳴から、母と父、給仕係も池の周りに集まった。
私が抱き上げた一宮は、驚くほど冷たくなっていた。
すぐに横に寝かせ、飲んでいた水を吐き出させ人工呼吸を試みた。
ゲホゲホと水を吐くと、ぐったりした彼の瞳から一滴涙が垂れていた。
病院に運ばれていく彼は、私に手を伸ばした。私もその手を掴んだが、彼は弱弱しい力で私の手に爪を立てると意識を手放した。
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それから彼は二週間、吉田の専属医師のいる病院へ入院した。彼の話を聞いた医師から、『贈り物を整理していたら風に飛ばされた。取ろうとして足を滑らせた』と事故だったと告げられた。
が、仕事が忙しく面会時間内には会いに行けなかった。
夜、特別に訪問すると、彼はいつも眠っていた。
起こしていいものかわからず、その場を立ち去る。花や食べ物をテーブルに置いて、自分だとは告げなかった。
三週間。流石に私でも入院期間が長すぎると疑問を感じていた。
すると蓮華が私の部屋にやってきて、その真相を告げた。
「一宮様の入院を伸ばしたのは私。私が、お父様とお母様にお兄様の行動を告げ口しました」
「……そうか」
「一宮様は退院しますが、しばらくは療養していただきたくて、父さまに別荘を買っていただきました。医師も一宮様の体の痕を見て気づいてくださったみたい」
「そうか」
「面会も兄さまは禁止です。どうしてもしたい場合は、父さまか母様とご一緒願います。本家として恥ずかしくない行動ができるのでしたらね」
妹は私を敵のように睨むと、一礼して扉を閉めた。
要するに私はもう彼の夫としての資格はないと、そう判断されたらしい。
だが私だけが悪いわけではない。先にだましたのは彼の方だ。
Ωの匂いで私を惑わしたのは彼の方だった。
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