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第11話
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「これで良かったのよね。一宮様」
「あはは。蓮華さん、僕のことをそんな風に言わないでよ。同級生です。同じ学園でしょ」
困ったように笑う一宮の姿を、私は二人にばれないように隣の病室で聞いていた。
会ってはいない。だが退院するその日しか、彼にもう会えない。詫びいれ本家に帰ってきてもらわないと、私の跡取りとしての外聞が悪いものになるからだ。
父もそれをわかっていて許可した。タイミングを逃し先に蓮華がいたのだけは誤算だった。
「僕ね、学校は休学したんだ。もう戻れない。蓮華さんは結婚は卒業してから?」
「え、ええ。そうだけど、でもどうして」
蓮華の戸惑う声とは裏腹に、一宮の声はとても穏やかで静かなものだった。
「うん。ご懐妊ってやつみたい。発情期もきてないのにって驚かれちゃった」
「ええっ」
「だから療養して元気にならなくっちゃ。溺れた時に赤ちゃんを殺さなくてよかった」
おなかを撫でながら語っているだろう一宮の声は、慈愛に満ちていて優しかった。
「本当はね。強姦に近いあの行為で、赤ちゃんができるなんて残酷だなって思うんだ」
「……一宮様」
「でも、愛がなくてもおなかに子供がいるって、とっても愛おしいんだ。おなかの子供ならもしかして僕のこと、愛してくくれるのかなって」
隣の病室なのに、彼の落とす涙の音が聞こえてきたように感じた。何度も何度も音が頭の中に響いていく。
「人質が、犯人に殺されたくなくて犯人を好きになっちゃうって本で読んだことがあってね。僕も一緒にいたら、旦那様を好きになれるかなって。でも旦那様がどんな人か全然触れてくれなかったから分からなくて。でも、でもね、本当に自殺じゃないんだ。足を滑らせたんだ」
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