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第13話

 *  何度も手紙を書いた。もし必要であれば援助は惜しまないが離婚もする。もし許してくれるのならばやり直しさせてほしい。季節の花を贈った。食べ物も、子どもの服も。  最初は何度か帰ってきた手紙もやがてぴたりと止まった。  私の手紙は蓮華が必ず届けていると言っていたが、返事を持って帰ることはなくなった。  十か月たったころ、蓮華がその真実を教えてくれた。 「おなかの子が女の子だったの」  彼は絶望しているのだという。 「産まれたのか?」 「ええ。父さまも母様も、とっくに見に行ってる」 「私は――」 「帰ってくるわ。一宮様がそういったもの。男の子を生まないといけないから、帰るって」  暗い顔。蓮華は泣きながら部屋から出て行った。  その夜、小さな赤ん坊を抱きしめた一宮が、私の母に支えられて屋敷に戻ってきた。  一宮は、私に赤ん坊を抱っこさせてくれた。 「目が大きく、お前似の愛くるしい顔をしている」 「そうですね」  静かにそういうと、彼は離れの私たちの寝室へ向かった。  赤ん坊を抱きしめながら、彼は静かな声で言う。 「オメガだったんです。この子、Ωなんです」 「……そうか」 「この子が、僕みたいに婚約先で――っ」  一宮は崩れ落ちるように座り込んだ。 「αに産んであげたかった。そうしたら、――苦しまなかったのに。僕のせいで」 「一宮」  後ろから抱きしめるが抵抗はしない。体をこわばらせることもない。  抱きしめた手を、握り返してくれた。 「本家のオメガは、蓮華のように大切にされる。大丈夫だ」 「旦那様、もう一度、抱いてください。次はちゃんとαの跡取りを産みます。だから」  自分の子を守ろうとしての、言葉だとわかった。  分かっていたが、彼が望むのもを与えたいと思った。  優しく。今度こそ間違わないように。  愛とは違うかもしれないその行為。  私はもう一度一宮を抱いた。  強張らせないで、彼は一度もおびえることはなく私を受け入れた。  そうして翌年、彼はαの男児を産んだ。

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