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第3話
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髪からポタポタと水を滴らせ、明がスウェットのズボンだけ履いた姿で浴室から出てきた。
「明、垂れてるよ」
食器を洗う手を止めて、朔は明の肩にかかるタオルを取り、頭を拭いてやる。気持ちよさそうに僅かに口元を緩めながら明が熱っぽい瞳を向けてくる。
「朔も早く風呂入ってこいよ。腹、減ってきた」
「…、うん」
今日もフェラをされるんだな、と朔は思い、やや戸惑いながら頷いた。
普段は明の『食事』に関して、朔が風呂に入る前だろうが、入った後だろうが関係はなく吸血されてそのままセックスに至っていたが、ここ数日、明は必ず朔にフェラをしてくるようになった。さすがに、フェラをされるのに風呂に入っていないのは気が引けて、少し前、明にそのことを訴えたらやや不満そうな顔をされながらも先に風呂へ入ることを許可された。
それからというものの明がフェラをすると決めている時は、必ず早く風呂に入れと言われるようになった。しかし、それは朔にとって、これからされる行為を先に連想させられて、少し気恥ずかしい言葉でもあった。
そもそも明はなんで自分に対してフェラをしたがるのかが分からない。
明が朔を抱くのは、食事のためだ。
体を撫でるのは、吸血行為が痛くないようにするため。
体を貫くのは、吸血行為で興奮した自分を慰めるため。
挿入するのは、分かる。
朔を慰めつつ明だって気持ちよくなれて、互いに得をする。
けれど、フェラは朔だけが気持ちいい。
だから本当はしなくていい行為なのに。
よく双子は一心同体だとか、相手の考えることが分かるとか言われるが、実際そんなことはなかった。
明の考えが読めないものの、朔はとりあえず昼間考えたことを決行するなら今だ、と思いながら浴室へ向かった。
シャワーチェアに座りながら近くのドラッグストアで買ったカミソリとシェーピング剤を朔は手に取った。シェーピング剤は、アンダーヘア用のを買っておいた。女性用しか見当たらなかったので、パッケージがピンクに花柄のファンシーなテイストになっている。
プシュッと音をさせて泡がもこもこと手のひらに出来る。フワッと甘い花のような匂いがした。ある程度の量を出したところで、朔は自身の陰毛へたっぷりとその泡をつけた。
シェーピング剤を置き、カミソリを持ち直す。下腹部にカミソリの刃を宛て、朔がその手を滑らせようとした瞬間、
「おい、朔。シャンプー切れて…」
「っっ!?」
浴室の扉が何の予告もなく開いた。
明が詰め替え用のシャンプーを手にして、立っている。目を見開き、キョトンと朔を―――否、朔の泡だらけな股間を見ていた。
「………なに、やってんだ?」
「……」
別に隠すようなことをしていたわけではない。
どうせセックスの時にバレる。
そう思うものの、なぜだが恥ずかしさが襲ってきて、朔はすぐに答えられなかった。
「…さぁく?」
明が間延びして自分の名前を呼ぶ時は、焦れて苛立っている時だ。ビクッと小さく肩を震わせる。
「…あの…剃ろう、と思って」
「なんで?」
「…」
「お前の毛なんて、俺が気にしたことあったか?」
「…ない」
明が気にしなさすぎるから、心配になったのだ。
「…じゃあ…他の誰かがお前の毛を気にしたのか?」
やや歯切れの悪い朔の返答に勘違いをしたようで、人一人あっさりと殺せそうなぐらい明の顔がみるみる険しくなっていった。
慌てて朔は首を振り、声を荒げた。
「そうじゃなくて…っ」
「じゃあ、なんだ?」
「…だから、その…明が口でする時、…毛が…明の口に入っちゃうじゃないか」
「…?だから?」
「最近、よく…口でするし…多分、飲み込んでるのもあるだろ?あんまり入ったら体に悪いかと思って…」
恐る恐る明の顔を見ると、鬼のような表情は消え失せ、再びキョトンと目を丸くしていた。とりあえず誤解はなくせたのだと安心しつつ、何も言ってこない明に今度は朔の方が不安になって声をかけた。
「…あ、明?」
何か変なことを言ったのかと心配していると、不意に明が楽しそうに――そして、どこか少し嬉しそうに口元を歪ませた。
そして、ズボンを履いたまま、塗れた浴室に入ってきた。
「明?」
何も答えずに、明はひょいっと朔の手からカミソリを奪った。
「それじゃあ、俺に剃らせろ」
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