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恋は10分もかけずにオムライスを平らげると満足したのか満面の笑みで俺を見上げた。 「ごちこうさま!」 「口にケチャップついてるぞ。」 「んん、とってとって。」 「本当、紀実にそっくりだな…ほら、動くな。」 「んー。」 口の周りにべっとりついたケチャップを拭き取ると恋はうーん、と何かを考え込むように首をかしげた。 「どうした。」 「忘れてた。」 「何をだ?」 「僕、オムライス食べに来たんじゃなくて勇気さんにお話しに来たの!」 「…話?」 「パパが寝る前にお話してくれたこと。」 恋はにっこり笑うと椅子を降り、俺の前で両手をあげた。 抱き上げろって事だろう。 俺は何も言わずにその体を抱き上げると膝の上に座ってはまた、足をパタパタと動かした。 「パパ勇気さんの事が好きだったって。」 「……そりゃ、仲が良かったからな。」 「ううん。恋してたって。」 「は、……はぁ、…?」 その言葉に間抜けな声が出る。 恋、してた? 結婚して子供を持つ紀実がどうしてそんな事を言うんだ。 「あ、ママには秘密だよ。」 「わかってる。」 「パパね、ずっと勇気さんの事が好きだったんだって。でもね、男と男はケッコン出来ないからママとケッコンしたんだって。僕、難しくてわかんないけど…」 「…それ、本当にアイツが言ったのか。」 「アイツってパパ?」 「あぁ、そうだ。」 「うん。パパが言ったの。寝る前に毎日パパがお話してくれたんだ。勇気さんとのお話。いっぱい好きだったって。」 頭が真っ白になる。 今はもういない紀実にこれが本当かなんて聞くことは出来ない。 でも、もし俺の知らない話があるのなら。 「…恋、パパが話してた事、もっと俺に教えてくれないか。」 「いいよ!」 「ありがとう。」 俺は恋の体を抱き直し、優しく頭を撫でた。 これから知る 本当の話を受け入れるために。

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