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恋は全ての指を折り終えるとなんでもない顔で俺を見た。
そして、また「あのね」と言葉を繋げる。
「パパ、勇気さんのこと大好きだったんだよ。」
「…あぁ。」
「いっぱいいっぱい好きなの。でもね、好きですって言えなかったの。」
「…そう、だな。」
恋はそこまで言うと机の上のオレンジジュースの入ったコップを両手で持ち上げ飲み干した。
紀実の一番近くにいたはずなのに、俺はちっともアイツの気持ちに気付けてなかった。
なんでだ?
俺達は相思相愛でいたはずなのに。
「あのね、パパが勇気さんのこといっぱい好きなのと同じでママもパパが大好きなの。でもママとパパは一緒にいるの、どうしてなの?どうして勇気さんとパパは一緒じゃないの?」
「…それは俺達が一緒になるのを望まなかったからだ。」
「どうして?大好きなのに?」
「好きでも一緒に…いられなかったんだ。」
恋はどうしてどうして、と繰り返して半べそをかいた。
そんな事俺の方が聞きたい。
俺だって紀実と一緒にいたかった。
出来ることなら愛し合ってそばにいたかった。
こんな、互いの知らない片思いなんて味わいたくなかった。
「なぁ、お前のパパは幸せそうだったか。」
「うん!」
「ママと仲良しだったか?」
「うん!」
「…それが、1番の幸せなんだ。だからだぞ。」
「パパは勇気さんと一緒じゃ幸せになれなかったの?」
その言葉に胸がズキリと痛んだ。
幸せになれなかったのだろうか。
もう二度と戻れない日々を脳裏で走らせる。
もし、紀実がいて俺がいて。
そのそばに恋がいて。
毎日、隣で生きていけたらどれだけ幸せだっただろうか。
紀実はどれだけ多く生きていけただろうか。
「パパは、ママと幸せになったんだ。」
「…うん。」
「恋、ありがとう。お前のおかげで…またアイツに恋をできた。」
俺は悲しそうに俯く恋の体を抱きしめた。
どうしてだろう、涙が溢れてくる。
紀実、もしお前がここにいたらどういうだろうか。
「何泣いてんだよ、そんなに悲しいことがあったなら俺が笑わせてやる。」
ってそんな風に笑うだろうか。
髪をグシャグシャに撫でて、肩を無理矢理に抱いて。
それから、それから
「…またすぐに会えるだろ。」
「え?勇気さんなぁに?」
またすぐに会えるだろって。
笑うんだろうな。
今だけは泣いていいか。
お前が遺したモノはちゃんと俺が守るから。
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