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愛おしい(Side歩叶)
「ねぇ〜!うちに来ればいいじゃ〜ん!」
うるさい…耳元で甘ったるい声を出されて正直気持ち悪い。俺が彼方に近づかないと誓ったあの日から数日が経った。休み時間は保健室に行かなくなって女子達が一気に集まって来るようになった。俺の腕に胸を摺り寄せてきては俺の方を上目遣いで見上げて来る。これが彼方だったらと思ってしまう俺は末期なのだろうか?
授業中には彼方の顔が浮かんできて集中できなくなる。でも次に浮かんでくるのは涙を流し、荒い呼吸で「もう僕に関わらないで」と言った時の彼方が浮かんでくる。その度に胸が痛くなっては、何故俺は守れなかったのだろうという罪悪感に苛まれる。
「金崎…」
廊下で金崎にすれ違った。
「いい加減に先生ぐらい付けてくれてもいいんじゃないのか?で、なんだ?」
「彼方は、来てないのか…?」
一瞬苦しそうな顔をした。
「来てない…今は理人君と朔也が付き添ってくれている…」
廊下で金崎とすれ違う度に彼方の現状を聞くのが癖になっている。
「歩叶君…彼方君を救ってくれないか?」
「そんなこと…」
「もちろん無理なお願いをしているのは分かってるんだ…でも今まで誰も自分に触らせて来なかった彼方君が歩叶君にはそれを許した…救えるのは君だけな気がするんだ…」
俺だけ?嘘だ…俺は彼方を傷つけてばっかで何もできてない…
「帰っていい…?また今度…」
俺はその場を逃げるようにして去っていった。
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