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正義のヒーロー

「位置について…よーい」 音がなった瞬間に全速力でゴールへ向かう。200m先のゴールへ向けて、歩叶君がそこで腕を広げて待っていると思って走る。集中していて驚くほど周りの音が何も聞こえない。ゴールへと自分の体が吸い込まれていく感覚は小学校以来で風が当たって気持ちよかった。 「…ふぅ…」 ゴールして周りを見るとみんなの口が開きっぱなしで目を見開いていた。そういえば佐々木君は… 「あ、あああの大会で全国ベスト10を取った理人先輩の次にこの学校で速い佐々木を抜かして…大差をつけたなんて…」 「うそ…すごーい!きゃー!」 次々に歓声が飛ぶ。 「先生!桜城君のタイムって…」 「やっぱ流石だな…桜城のタイムが22秒56で佐々木が24秒32、ちなみに理人は確か…22秒25だったかな?」 「理人にまた負けた…」 小さい頃から周りの子には余裕で勝てたのにどうしても理人にはほんの少しタイムが届かなくて勝てない…そういえば"やっぱ流石だな"って…僕の事知ってるのかな? 「先生…僕って先生に会った事ありますっけ?」 「やっぱ覚えてねーか…お前が小学生のときに俺中学の教師やってて陸上部の顧問としてお前を誘ったんだよ」 「そうだったんですか?どうもお久しぶりです」 そう言って頭を下げる。あの不良君の存在を忘れて… 「何グチグチ言ってんの?お前、大して顔も良くねーくせして調子乗ってんなよ?オラァ!」 「ドスッ」 鋭い痛みを待っていたのに一向にその痛みは来ない。 「いってーな!今、彼方に何しようとしたわけ?」 その声の主は歩叶君で僕の代わりに当たってくれたみたいだった。頬が赤くなってそこを抑えている姿が痛々しい。

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