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勘違い

「彼方…」 ドアの音は光ちゃんが出ていく音では無くて、誰かが入ってくる音だった。僕の名前を呼ぶその声は何度も聞いたことのある愛おしい声で一瞬にして体が凍ったように動けなくなる。 「彼方は突然いなくなって何してるのかと思って探してたら他の女の子と遊んでたの?もしかして俺が彼方の事探す必要無かった?男の俺より可愛い女の子の方がいい?」 入ってきたのは汗を拭いながら荒い呼吸をした歩叶くんだった。初めてあったときのような冷たい声をしていてなんだか怖くなる。 「ちがっ…」 「違う?何が?」 「あゆとくーん!あっ居た!歩叶君!勝手に走ってかないでよ!みかの事置いてっちゃやだ!あれ?彼方君もいる!イケメンが二人も揃った!」 急に歩叶君を呼ぶ声が聞こえてその主を見るとさっき歩叶君にベタベタしていた女の子達だった。それを見た瞬間に再び黒い感情が出てきてこの場を離れたくなる。 「彼方君は私と遊んでたわけじゃ…」 「部外者は黙っててくれる?あんた競技何?」 「部外者…ハードルだけど…」 「呼ばれてたよ?早く行けば」 「何?修羅場ってやつ?うちらそういうの面倒くさいから退散しまーす!また来るね!」 そう言って光ちゃんとさっきの女の子は出ていって残されたのは僕と歩叶君だけになった。 重い空気が流れる。 「で?別れたい?あの女と一緒がいいの?」 「違う!歩叶君じゃなきゃ嫌に決まってるじゃん!触れるのだって歩叶君だけだし歩叶君といるときが1番楽しいよ!」 「何?触れるのは俺だけって、それあの女にも触れるのは君だけとか言ったんじゃないの?」 そんなことを歩叶君は思ってたの?僕が触れるのは歩叶君だけって信じてくれないの? 沸々と怒りが湧き上がってきてこれ以上歩叶君といたら怒りが抑えられなくなる。 「…ごめん、帰る…車は出さなくていいから一人で帰る。夕飯も用意しなくていいから」 そう言って僕は保健室をあとにした。

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