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嫉妬
「これとかどう?」
「うん!すごく似合ってるよ」
朔也が試着室で着替え終わり見せてきたのはグレーのシンプルなもので整った顔とはすごく合っていた。このスーツは僕が選んだもので、似合っていた事にホッとする。
「すごくお似合いだと思いますよ?」
近くにいた女性の店員は頬を紅潮させて見ていた。誰もが目を引くようなかっこよさに一目惚れしてしまったのだろう。別に僕は朔也と付き合っているわけでも無いのに嫉妬している自分が恥ずかしくなる。
「美晴?早くついてこないと置いてくぞ」
「あっ…!ごめん!すぐ行く」
余計な事を考えていたせいで一人その場に取り残されていた。もちろん僕に歩幅を合わせてくれる筈なんて無いのに、何回も見た光景が頭から離れない。
女の子と歩いてる時にはその子の歩幅に合わせてゆっくり歩いているのなんて何回も見たことがある。ここで湧き出て来るのはまたまた嫉妬心で自分がこれだけ好きになってしまったのを嫌になる。
「ごめん、歩くの早かった?」
「えっ?」
いつもは聞かない質問に少し戸惑う。
「いや…美晴が選んでくれたこのスーツを買えたことが嬉しくて舞い上がってた…早かったら言えよ?」
心臓の鼓動が一気に増すと共に抉り取られるような痛みに拳を握る。こういう事を平気な顔をして言わないで欲しい。いやこんなのは朔也にとって普通の事なのかもしれない。
「そんなことないよ、大丈夫…てか急にどうしたんだよ」
無理に笑顔を作っているのがバレないか不安になる。
「別にどうもしてねーよ…どうする?この後どっか行く?帰りたいならいいけど」
こういうときどうしたらいいか分からない。僕の気持ち的には勿論まだまだ一緒にいたい。でも朔也が迷惑なんじゃないか?
「ご飯食べに行きたい…」
「飯?」
「あっ!良いよ!別に迷惑じゃなきゃの話、行きたくなければいいんだけど、僕は帰っても何もすること無いから…」
自然と出ていた言葉を取り消すように必死に言い訳をしている自分が痛い。
「なに焦ってんだよ、良いよ、行くぞ」
「えっ…良いの?」
「自分から誘っといてなんなんだよ、早く行こうぜ」
そのまま僕は引き摺られるようにどこかに連れて行かれた。
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