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自惚れ
周りを見渡したらトイレの電気が光っていた。几帳面な朔夜は電気をつけっぱなしにしないと思い恐る恐るその中を見てみた。
「……!」
便座によりかかるようにして目を閉じている朔也。口の端からは嘔吐したと思われる液体と便器の中には昨日食べたであろう物が吐き出されていて床には薬の箱が落ちていた。
そして真っ赤になった目からは大粒の涙が溢れていた
「さ…くや?」
「…嫌だ…やめて…来るな…」
目をさまし、僕の顔を視界に入れるよりも早く自分自身の体を抱きしめるようにして縮こまった。その体は酷く震えていた。
「気持ち悪いよ…女…怖い…気持ち悪い…触んな…」
「朔也!僕だよ?」
「み…はる?」
この時に僕は後悔したんだ…嫌がっていた朔也を無理やり合コンに連れて行って、それなのに朔也を置いて先に帰ったから…僕が朔也の女性恐怖症を作り出した張本にである事に罪悪感を持ってまた、少し距離を取る事となった。
といっても中学の時のようなものでは無くて二人で一緒にいるものの相手の事情に踏み込んだりはしなくなった。
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そして何故か僕は今朔也からキスをされている。
「はぁ…女性恐怖症の俺に彼女なんているわけねーだろ?」
「で、でも今…」
微かに、いやしっかりと残った唇の感触や体温。これは全て朔也のもので……
「んっ…はぁっ……」
再び唇を重ねられさっきよりも深くて蕩けるような口づけに脳内が混乱する。
口の端からは飲み込むことのできない涎が次から次へとこぼれていき酸欠状態で頭もぼーっとする。
「これでも分かんない?」
自惚れてもいいのだろうか…これが僕の勘違いで終わるような事は無いだろうか?僕と同じ気持ちでいてくれているって事でいいのか?
「たか…さきさんは?」
「は?誰?」
頭の中いっぱいに残っている高崎さん、昔朔也と付き合っていた人。もしかしたら今でもという考えも僕の中には存在していて。
「だから…その…前に…その…中学のときの…」
「あー…高崎ってあの高崎か…もうとっくのとうに別れてるよ」
「そっか」
「てか別れてなかったら俺は不倫してんじゃねえかよ!生憎そんな腐った神経は持ち合わせてねーよ」
そうやってふっと笑う朔也の顔からはさっきの酔っ払った雰囲気はどこにもなくいたって通常運転だ。
「ふふっ…随分と不思議そうな顔してんな?」
「だって…あんなに気持ち悪そうにしてて…」
「こうでもしないと自分からこんな事できない気がした…いつも美晴はどこか俺から離れていて、今だって近くにいるのに遠くにいる気がすんだ…どこか一線を引いた感じで俺に近づいて来ない」
「そんなこと…」
自分ではそんなこと無いとは断言できなかった。それはしっかりとした事実だったから。
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