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第ニ夜

勃ち上がった屹立から白濁が滴り落ちる。 四つん這いの身体の下に敷かれたシーツに、新たなシミが浮かび上がる。 それを見るともなしに見届けながら、ヴォルフラムは上半身をベッドに伏せて、背後から己の腰をつかむ男に声をかけた。 「…ぁ、あ…はぁ、ランティス…らん、てぃす…」 「旦那様。もう、宜しいのですか?」 「ああ…もう、いい。もう満足したから、抜いてくれ」 「かしこまりました。ではゆっくり抜きますので、楽にしていてください」 「ん、んんぅ……はぁっ」 何度も中に白濁を注ぎ、媚肉を擦り上げてくれた愛しいモノが抜き取られていく瞬間は官能的で、ヴォルフラムは媚肉を震わせながら吐息をこぼす。 ぬぽっと卑猥な音を立てて抜き取られた途端、塞ぐものを失った秘部からはとろとろと白濁が溢れ出していく。 ぽっかりと空いたまま弛緩して塞がりにくくなっている秘部を震わせながら、ゆっくりと下肢をベッドに降ろされ、ヴォルフラムは心地よさに口元に笑みを浮かべた。 「ありがとう、ランティス。すごく、よかったよ」 ポートマン家に仕える有能な執事のランティスは(ベッド)でも、優秀だ。まだ29という若さながらに、主人の無聊を過不足なく慰めてくれる。 時間外労働でも、文句の一つも言わないし、無駄口も叩かない。 ただ洞察力に優れている青年は、時に鋭い言葉を投げかけてくることがある。 「私に抱かれながら、今夜はどなたの事をお考えだったのかお聞きしても宜しいですか?」 「…なんの、ことだい?」 「隠しても無駄です。貴方はわかりやすい。私に抱かれながら、その瞳には別の人が写り込んでいました。今宵はどなたを思い浮かべてらしたんですか?」 背中に覆いかぶさりながら、キスを施しつつ返事を促してくるのはずるいなとヴォルフラムは苦笑した。 互いに割り切った関係であり、彼は主人として慕ってくれているだけだと分かっているのに、心地よくなってしまってついつい口が軽くなってしまう。 「分かってるくせに、わざわざ聞くなんて…少し悪趣味だね、ランティス」 「では、やはりまだ忘れられないのですね。お父上のことが」 「悔しいことだけど、ね。この身体は、どこもかしこもあの人の存在を刻み込まれすぎていて、どうしても思い出してしまうんだ。特にこの部屋で抱かれているときは、ね」 父が亡くなって、ヴォルフラムが当主の座につき、既にそれなりの月日が経過している。 ヴォルフラムの寝室として使用しているこの部屋はかつての当主たちが使用していたもので家具もそのまま受け継ぎ、配置すら変えてはいなかった。 父の生きていた頃の記憶を消してしまいたくないからなんて言うつもりはなかったが、結局はそう言うことなのだろうなと漸く認められるようになった。 自分も32歳。 随分と年をとったものだと思う反面、記憶はまだ鮮明にあの時のことを思い出すことができる。 だが、流石に父のことは過去の人だとある程度割り切ることはできるようになっていた。 父が亡くなってすぐは、自分を支配していたものがいなくなった事に対する喜びよりも、絶対的支配者の喪失に絶望を抱いていたほどだ。 完全に父に洗脳されていると気がついたのはもう取り返しがつかないところまで来てからで、自分の生き方や考え方ひとつ、彼の思考に沿うように教育されていたからか、父が亡くなった時は死にたいとすら思ったーーーーが、そんな感傷にも終止符を打つ頃合いだった。 「でも、過去にとらわれるのも今夜で終わりだ。明日からは父親としての務めを果たさなければならなくなるからね」 「正直貴方が、お父上の遠縁にあたる子供を養子にと決断されるとは思いませんでした」 「知っているだろうけど、親族からはそろそろ結婚して後継者をつくるか、養子を迎えろと迫られていたからね。ずっと逃げ続けていたけれど、潮時だろうと観念しただけだよ。それに彼はとても優秀だと聞いている」 顔見せの時に一度だけ会った少年の顔を思い浮かべ、ヴォルフラムは執事に気がつかれないほど小さく身震いした。 一瞬、脳裏に父親の面影がちらついたのだ。父と同じ血が多少なりとも流れているせいなのか、養子にと望んだ少年は、どことなく父に似ていたなと思いだす。雰囲気は全然違うのに、なんとなく顔つきが似ていたのだ。 「明日は息子を手厚く出迎えなければいけないな。私が父親であることに不満を持たれないようにしなくちゃ。私に子育てができるか怪しいが、後継者を育てるだめだ。やるしかないね」 「貴方なら大丈夫かと。僭越ながら私も、お力添えいたします」 「ありがとう。頼もしいよ。彼にはポートマン家の次期当主として覚えてもらわなければならないことがいくつもあるからね」 何から教えて行こうかと頭の中で整理していくうちに、父親になることへの不安と責任を実感した。 まずいなと自覚するとともに、考えすぎると妙に頭が冴えて眠れなくなる悪い癖が発生してしまう。 日が昇るまでには十分な時間あるが、このまま寝られそうにない。 「ねぇ、ランティス。わるいんだけどもう一回だけ、いいかな?」 「かしこまりました。明日は早いのでもう一度だけならお付き合いいたします」 ありがとうと微笑むと、ランティスは心得たようにヴォルフラム身体を優しくひっくり返し、今度は正面から挑んでくる。 大きく脚を開かれ、再び双丘の狭間に忍び込んできたものを受け入れながら、こんな姿は息子にはとてもじゃないが見せられないなと苦笑しつつヴォルフラムはうっとりと目を細めた。

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