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喫茶店のオーナーと甘党の彼_3

 呑ませ過ぎた事は否めない。  江藤は酒にめっぽう強い。そんな彼と同じペースで飲み続けた結果、ダウンしてしまった。  まさかこんなかたちで大池をお持ち帰りすることになろうとは。  酔った大池を部屋まで運んでベッドの上に寝かせ、苦しくないようにネクタイとシャツのボタンを2つ開けてベルトを外す。  無防備に眠る大池は可愛いくて普段とのギャップにドキドキしてしまう。  後ろへ流して固めた髪を崩したらもっと可愛くなりそうだ。  弄ってみたくなって手を伸ばしたその時。 「えとーせんぱぁい、やめないでください……」  体を丸め布団を抱きかかえて眠る大池の寝言に一瞬理性が飛びそうになる。  会社を辞めるからとあいさつをしにいったとき、江藤に対して大池が言った言葉は感情の籠らぬ声で「お世話になりました」とだけ。  そっけない別れの言葉に大池は自分に対して興味がないんだと、改めて思わされた。だから別れは悔い。なのに、ここでそんな事を言わないでほしい。  寝言だけど大池がそんな風に自分を思ってくれていた事が嬉しく、触れようと腕を伸ばしかけてやめた。  相手は酔っ払い。  このまま一緒に居たら大池に対して何をしでかすか解らない。  江藤は寝室から出て居間の床の上へと横になった。  寝癖だらけの頭でぼっとベッドの上に正座になる大池に、会社で見せるクールさを微塵にも感じない。 「あの……、どうして俺は江藤先輩の寝室で寝ていたんでしょうか?」  寝起きで頭が回転していないようで、身なりは整っておらず外したボタンもそのままでちらちらと鎖骨が見える。 「酔いつぶれたからうちに連れてきたんだ」  普段とかけ離れた大池の姿があまりに可愛くて、つい、じろじろと見てしまいそうになって視線を外す。 「そうでしたか。御面倒をおかけいたしました」  深々とお辞儀する大池に、彼らしいなと思いながら「いえいえ」と江藤も真似をしてお辞儀を返した。  スマートフォンの時計を見て、まだ時間に余裕があるので家に帰りますという。 「お礼とお詫びには改めて喫茶店の方におうかがいします」  失礼しますとそういって立ち上がる大池を江藤は「ちょっとまって」と引き止める。 「なんでしょう?」  一瞬、眉をひそめた大池に、 「なぁ、飯食って行けよ」  と迷惑承知で誘ってみる。  その言葉に黙り込む大池に、やはりダメかと諦めかけた時、 「良いのですか?」  そうポツリと大池が言う。 「あぁ。簡単なもので良かったら」  食べることが好きなので自分で料理もするようになった。  この日ばかりは食い意地の張っていてよかったと自分を褒めてやりたいと思う。  朝食に偉く感動してくれた事を良い事に、 「7時30分までに店にくれば朝食を食わせてやるよ」  と誘ってみる。 「いいのですか?」  それに戸惑う大池だったが、良いからと来いと約束をとりつける。  もっと大池を知りたい。その想いが口から出て言葉となった。  傍に居たいと願った時は遠かったのに、離れた途端に近くになった。

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