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喫茶店のオーナーと甘党の彼_5

 後輩の来店は今の江藤には都合よく、大池の事をいきなりではなく徐々に聞き出そうと思い話し始める。 「どうだ、みんな元気にしているか?」 「はい。今、すごく忙しくてヒーヒー言ってますけどね」  それから暫く同僚たちの今の状況を聞かせてくれる後輩の話に耳を傾けていれば、都合よく大池の話になり相変わらず忙しそうにしているという。 「そう、なんだ」  いくら忙しくとも、返事は送ってくれる。そんな男だと思う。だから余計に気になるわけだ。  もっと詳しく聴こうと口を開きかけた江藤に、 「そういえば見ましたよ。江藤さんてばいつの間にあんな美人の彼女作ったんです?」  といきなりそんな事を後輩に言われて何の事だと目を瞬かせる。  大池に恋をしてからというもの彼女と呼べる存在など自分にはいない。 「いつの事だ、それは」 「えっと、五日前だったかな、駅前の百貨店前で」  五日前といえば買い物に付き合えと言われ、親友であり義理の姉でもある園枝(そのえ)と一緒に出かけた日だ。 「なんだ、園枝の事か。彼女は親友で兄貴の嫁さんだよ。信崎に聞いてみろ。あいつも親友だから」 「そうなんですか。じゃぁ、大池さんにも教えてあげないと」  そこで大池の名前が出てきてドキッとする。  何故、大池に教える必要があるのだろうかと思い、「大池に?」と尋ねる。 「はい。その日、大池さんも外回りで、途中で一緒になったんですよ」  普段は仕事以外の事に興味なしといった態度をとる大池だが、江藤と美人な女性が仲良く歩いている姿には驚いたようでずっと見ていたのだと、珍しい光景を見たと後輩は言う。 「大池さん、江藤さんに懐いてましたものね。だから余計に驚いたのかな?」 「え、懐くって」 「だって何かあると江藤さんにばかり意見を求めていたじゃないですか」  確かに仕事の相談ならば自分以外に聞いたって良いのだから。  自分に懐いてくれていたのかと、後輩に言われてはじめて気が付いた。 「さて、そろそろ戻らないと」  伝票の上にお金を置いた後輩がまたきますと言って店を後にする。  懐いていてくれた事が嬉しくて気分が上昇しかけたがすぐにそれは下降する。  それならば何故、メールの返事は来ないのだろうか。  

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