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喫茶店のオーナーと甘党の彼_10

 重い足取りで江藤の喫茶店へと向かう。  残業があると嘘をついて家に帰ろうかと思っていた。だが、一日会わないでいて気持ちが落ち着くとは思えない。  ならば江藤に今の気持ちをぶつけた方がいいのではないかとかとそう思った。 「こんばんは」  チャイムを鳴らせばエプロン姿の江藤が「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれる。  ほんわかした笑顔を見るたびに暖かい気持ちになるのだが、今日は違う。  顔を合わせる事が出来ずに目を反らし、江藤の後を追うようにリビングへと向かう。 「大池、こっちに来て」  鞄を置き江藤が手招きする場所へ。テーブルの上の皿に並べられたメロンパン。 「大池の為に作りました」  メロンの果実とクリーム入りですと手を広げそういう江藤。女子受けしそうなそのパンに、あの時の嫌な感じが胸をもやもやとさせる。 「……俺は彼女たちのついで、でしょう?」  甘く美味しそうな匂いを漂わすメロンパンを睨む。 「江藤さんがロリコン趣味だなんて思いませんでした」  と言えば、江藤がキョトンとした顔をした後に、ぶっと激しく吹いた。 「俺が、ロリコン趣味ってっ!」  いかにもおかしいとばかりに腹を抱えて笑う江藤に、大池はカッとしてテーブルを激しく叩いた。 「大池?」  それに驚いたのかビクッと肩を揺らして大池を見る江藤に、 「昼間、店に行こうとしたら、貴方がっ」  女子高生にデレデレとしていた姿を見たと言えば。 「あぁ、なんだ。お前、ヤキモチ妬いたのか」  やたら嬉しそうな顔をして顔を覗かせる江藤に、あぁ、そうだったんだと思うと怒りが急激に冷めて恥ずかしさが込み上げる。  そう、大池は初めての経験故にこれがやきもちだと言う事に気が付いていなかったのだ。 「大池、なぁ、どうなんだよ」  そっと胸に手を置いて顔を近づける江藤に、無言のまま顔を遠ざけようとするが、腕を掴まれて江藤の方へと向かされる。 「大池」  ちゅっと音をたて唇が離れ、触れるだけのそのキスに大池は泣きそうになる。 「先輩が俺以外の人にデレデレする姿なんて見たくありません」  そのまま江藤の胸へと顔を埋めれば、優しく髪を撫でてくれる。 「可愛い事を言ってくれるなぁ」 「江藤先輩は俺のです」 「うん」  腰に腕を回してぎゅっと抱きしめれば、江藤が耳元で「俺はお前のモノだよ」と囁いた。

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