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求愛される甘党の彼_2

◇…◆…◇  今日は一人の客として、喫茶店へと来ていた。  オーナーとはあまり話をしたことはないけれど、乃木から紹介されて互いに顔見知りだし名も知っている。 「百武君いらっしゃい。乃木さんと待ち合わせ?」 「いえ、今日は客として来たんで」  打ち合わせの時はテーブル席へとつくのだが、そのままカウンター席へ向かう。  今は平日の昼時。目立つところに「お昼のパンのサービス」の張り紙があり、その下には残り何個と数字が書かれている。 「甘いの、平気?」 「はい。平気です」 「飲み物は何に」 「この前、乃木先生が飲んでいたのを」 「あぁ、カフェモカね。かしこまりました」  すると生クリームがたっぷりと入った甘い香りの珈琲と、白いパンがのせられた皿を目の前に置かれる。 「いただきます」  柔らかそうなそのパンにかぶりつくと、カスタードクリームと生クリームが中に入っていた。 「……美味い」  絶妙な甘さがたまらない。  百武は甘いモノに目が無く、思わず口元が緩んでしまう。 「江藤さん、これ、美味い」  パンを指さし江藤を見れば、やたら嬉しそうな表情を浮かべていて。子供っぽい所を見せてしまったと表情を引き締める。  若いという事で舐められたくはないと、落ち着いている所を見せようとするのだが、それが百武に愛想のない表情を作らせているのだ。 「あぁ、勿体ない」 「え?」 「眉間にシワ寄ってるよ。それでなくても目つきが怖いんだから」  眉間のしわを指で押さえ、江藤がにっこりと笑う。  なんか憎めない。相手が江藤でなかったら不機嫌な顔をして黙り込んでいただろう。 「百武君、甘党だったんだね」 「はい。俺、珈琲は苦くて飲めねぇんです。見た目がこんなだから、砂糖とミルクを入れて飲んでいたら余計に馬鹿にされんじゃなぇかって思ってしまって」  自分の担当する作家には、若造だと舐められたくないのだ。 「う、ん、そうだね、可愛いて思ってしまうかも」 「でしょう? だからこの事は乃木先生には内緒に」  そう江藤にお願いすると、 「あ……」  何故か気まずそうな顔を向けられる。 「何が内緒なのかな?」  すぐ傍で声が聞こえて、そちらへ顔を向けると乃木の姿がある。  話しに夢中だったからか、ドアベルが鳴った事にも気が付かなかった。しかも江藤が何も言わなかったから余計だ。 「どうして」  乃木が居る事を言ってくれなかったのかと、江藤を恨めしく見る。 「だって、店を覗いたら百武君がいたものだから。江藤君に内緒ねって」  唇に人差し指を当ててポーズをとり、そういう事かと納得する。  ようするに乃木が悪いのかと、目を細めると江藤が申し訳なさそうに手を合わせる。

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