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求愛される甘党の彼_3

「ごめんな。タイミングよく乃木さんが来たもので、言うに言えなくて」 「いえ。江藤さんは悪くありません。先生は迷惑ですが」  と冷たい目で乃木を見る。 「そんなこと言うんだ。百武君、酷い」  そう口にし、隣の席に腰を下ろしてコーヒーカップの中を覗き込んでくる。 「あれ、これって、カフェモカ? そっか、君って甘党なんだ」  嫌な相手に見つかった。そう思って俯けば、 「驚いたなぁ、随分と可愛い顔をするんだね」  と言われ、パッと顔を上げて乃木の方へと顔を向ける。 「なにを言って……」  可愛い顔とはなんだ?  掌で自分の顔をぺたぺたと触れば、クスクスと笑い声をあげて。 「頬、真っ赤だよ」  と頬を触っていた手を握りしめられる。 「なッ」 「可愛い」  甘く囁くようにそう言われ。無駄に顔の良いだけに胸が高鳴ってしまった。  そう、乃木は女性受けする容姿をしており、身長も自分と同じくらいなので180センチはあるだろう。  百武の場合は威圧を与えるその背丈も、乃木の場合はモデルの様に見える。 「乃木先生、手、離してくれませんかね?」  そんな自分にムカついて乃木を睨みつければ、 「怒らないでよ。顔、怖いよ」  と口角をあげる。その表情もさまになっていて、更に眉のシワが深くなる。 「普段からこんな、なんで」  無理ですと言えば、乃木が楽しそうに口元を緩めていた。 「うん、いつもの無愛想よりも全然良いよ」 「はぁ?」  何を言いだすんだ、この人は。  うろんな目で乃木を見れば、くすくすと笑い声をあげる。 「君、なかなか感情を見せてくれないじゃない」  無意識なの、それともわざと?  そう顔を覗きこまれて、百武は背を後ろへと反らす。 「見せねぇようにしているんで。若いからって馬鹿にされたくねぇんですよ」  これ以上、近寄らないで欲しいとばかりに掌を乃木に向ける。 「しかも、話し方が少しだけ砕けてるし」 「今は仕事じゃねぇですし」  とは言いつつ、きっと相手が乃木や江藤だからだ。 「うん。良いね。もっと百武君の事を知りたいから仕事以外でも仲良くしようよ」  飲みに行こうと言われて、即、却下する。  百武は酒が苦手だし、仲良くする気は毛頭ない。 「俺は、担当と作家という関係以上の仲になるつもりはねぇんで」  そうはっきりと口にすれば、乃木はやけに楽しそうな顔をしている。 「つれないね。そういう態度をとられると余計にもえるんだよね」  絶対仲良くなる。そう拳を握りしめて公言する乃木に、百武は眉にしわを寄せる。 「乃木先生、ウザってぇ、ですね」  苦手ですと口にすれば、乃木が吹きだして腹を抱えて笑い出した。

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