44 / 57

求愛される甘党の彼_4

◇…◆…◇  頭の中が煮詰まり、気分転換に散歩でもと家をでたが、帰りに寄ろうと思っていた喫茶店に珍しい人を見つけた。  今日は約束などしていない。なので、彼は客としてここに訪れたのだろう。  ドアベルの音があまり鳴らぬようにそっとドアを開け、自分に気が付いた江藤が口を開きかけた時、口元に指を当てて「内緒にして」のポーズをとる。  江藤はすぐに何事もなかったように百武との会話に戻り、乃木は二人の傍へと忍び足で近寄る。そこで彼が甘党であることを知った。  それが切っ掛けで百武と話すことができた。しかも、彼の事を少しだけ知る事も出来た。  それからというもの、百武から目が離せなくなった。  原稿を読む姿を眺めていたら、百武に気が散ると小言を言われ、それでも眺めていたら、鬱陶しいからとカウンターの席に行くように言われた。 「乃木さん、程ほどにしないと」 「うーん、そうだよねぇ。でも、気になりだすと駄目なんだよ」  困ったねと苦笑いすれば、 「まるで恋をしているみたいですね」  と言われて、流石にそれは無いと江藤を見てから百武を見る。  真剣な表情を浮かべいた彼だが、ふっと口元に笑みを浮かべ。  その表情を見た瞬間、胸が激しく高鳴り。 「え、ええっ!!」  驚いて思わず大きな声がでてしまい、あわてて口元を押さえる。  百武は読むのに夢中になっているせいか、こちらを気にする素振りも見せない。 「わ、乃木さん、いきなりどうしたんです!?」 「あ、いや、ごめん、なんでもない」  お騒がせしたねと、静かに腰を下ろす。  まさか、そんなはずはない。  ただ、驚いただけ。  そう思いながらそっと百武へと視線を向ければ、やたらキラキラと輝いて見える。 「参ったな」  そうボソッと呟けば、江藤が不思議そうな顔を浮かべて見つめていた。  百武を意識して見るようになり、いつの間にか大きく育ち恋心へとなる。  それからというもの、色々な彼を見たくて目で追うようになっていた。  あまりにジッと見つめていたせいか、視線に気がついてものすごく嫌そうな顔をされた。 「あんまり見ねぇでくれませんかね」 「あれ、俺、百武君の事を見てた?」 「えぇ。男に見つめられて喜ぶ趣味はねぇんで」  そう言うけれど、女性に見られたらそれはそれで困る癖にとぼやきつつ。 「実はね。君の事が気になってしかたがないんだ」  と思いを素直に口にする。 「な、俺のどこが、ですか!? 自分で言うのもなんですけど、顔は怖いし、愛想もねぇですし。一緒にいて楽しいとは思えねぇです」  趣味が悪ぃです、と、自分の事をそこまで言わなくてもと逆に思ってしまう。  今の百武はオフモードのようで、しゃべり方に遠慮がない。  この話し方をする百武とは、先生と編集担当という間柄ではなく感じて嬉しくなる。 「君はそう言うけれど、自分の価値を解ってないよね」 「何を言っているんですか。自分の事なんで解ってますよ。からかうつもりなら、勘弁してください」 「そんなつもりはないんだけどねぇ。まぁ、君にそう言っても信じては貰えないのだろうけど」 「相手が乃木先生ですからね」  なんか、傷つく。  肩を落としてため息をつくと、百武の眉のしわが更に深さを増す。  これ以上、彼の機嫌が悪くならぬよう、乃木は視線を外した。

ともだちにシェアしよう!