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求愛される甘党の彼_5
◇…◆…◇
出版関係の仕事につきたいと思うほどには本が好きだ。乃木の担当に決まり、他者で出版されているものも含め作品を全て読んだ。
実に面白かった。
彼と共に仕事をするのが楽しみで、しかも、原稿を一番に読むことが出来るのが嬉しかったのだ。
作家としての乃木は尊敬しているし好きだ。だが、一人の男として見るならば苦手な部類に入る。
今日も開閉一番に仕事の話をするより先に、どこかへ一緒に行こうと誘われる。
「一緒になんて無理です」
「行く前から、何故、無理だというんだ?」
「俺、乃木先生みたいなタイプは苦手なんです」
二人の間にあった壁をいつの間にか越えていて。気が付くと乃木のペースに巻き込まれる。
これ以上、近寄られたくない。
「少しぐらい強引にしないと、俺の事なんて考えてくれないだろう、君は」
だから押しまくるよと、手を握りしめられる。
「それが嫌なんですって」
「でも俺は君と笑いあいたい」
楽しませてあげるからと、引く様子は全くない。
「結構です」
乃木の手を振り払い、原稿を渡してほしいと言う。
「そう言わずに、デートしようよ」
「しつこいです。しかもデートって、何時の間にそうなったんです!?」
このままでは乃木のペースだと思いつつも口を出すをやめられない。それくらい頭に血が上っていた。
「兎に角、何度誘われようが乃木先生と一緒にどこかへ行く気はねぇんで。俺の事はあきらめてくれねぇですかね」
イライラと腕組みをしながら二の腕を指でトントンとたたく。
しかも乃木は何か企みがあるのか、目を細めて口角を上げる。
それが更に百武の神経を逆撫でし、もう話しなどしたくないとだんまりをきめようとした。
すると、
「なら、俺が書く新しいジャンルの話を読んでみたくない?」
なんて、百武の前に餌をぶら下げてきて。
しかも絶対に食らいつくと解っていての、とびきり餌を、だ。
「なんですか、それ。読みたいに決まっているじゃないですか!」
「じゃぁ、デートね」
間髪入れずに言われ、グッと喉が詰まる。
デートなんて絶対にしたくない。だが、新しいジャンルの話はそそられる。
「それを引き合いにするなんてずるいです」
「何だって手を使うよ、俺は」
得意げに言われ、
「……わかりました」
百武はとうとう白旗を上げるハメとなった。
「ものすごく嫌ですが、デートします。どこへ行くかは乃木先生が決めてください」
「了解」
後で連絡すると言われ、今から憂鬱な気持ちになる。ここは新しい話の事を思いながら耐え凌ぐしかない。
それから三日後、乃木からメールが届き、デートをする日取りが決まった。
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