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求愛される甘党の彼_7

 映画が終わった頃にはぐったりと背もたれにもたれて、乃木が大きく息を吐きだした。 「面白かったね」 「はい。口を開いたまま、画面に釘付けになってました」 「俺もだよ。あぁ、喉がカラカラだな。まだ夕食には早いからどこかでお茶でもしようか」 「そうしましょう」  自分も喉が渇いていたのでその提案に頷き、映画館の近くにある珈琲のチェーン店に入る。 「俺が買ってきますんで」 「そう? じゃぁ、アイスコーヒーお願い」 「はい」  百武が選んだのはキャラメルラテだ。  生クリームの上にはキャラメルソースがかけられている。 「随分と甘そうなの選んできたね」  乃木には甘党なのをばれているので隠すのをやめた。  ただ、飲んでいる姿をじっと見つめられ、居心地の悪さを感じる。  しかも男前が微笑んでいるものだから、まわりにいる女性が乃木へ熱い視線を向けている。 「……見ねぇでくれませんかね? 鬱陶しいです」 「あぁ、ごめん」  目の前の男に、そしてその男を見る女性たちの視界に出来るだけ入らないようにと俯く。  ふぅとため息が聞こえ、そろそろ出ようと言われる。 「はい」  急いで中味を飲み下して店を後にする。 「乃木先生、待ってください」  早歩きの乃木に声を掛ければ、ぴたりと歩みを止めてこちらへと振り向いた。 「あ……」 「どうしたんです?」 「いや、早く二人きりになりたくてね」 「今から飯を食うんですよね……?」 「あぁ。個室、予約しておいたから」  乃木に連れて行かれた場所は、自分の給料では到底入ることなどできないほどの高級料亭で。  財布の中身を頭に浮かべ、割り勘でも無理そうだなとキャンセルして欲しと伝える。 「大丈夫だよ。奢るから」 「いや、でも」  そこまでして貰うつもりはないと断るが、 「いいから」  と言われ、意外と強い力で腕を掴まれてしまう。 「せ、先生ッ」 「いい加減にしないと、口を塞ぐよ?」  ずいと顔を近づけられて、百武は逃げるように顔を反らせば、そのまま引っ張られて暖簾をくぐる。 「いらっしゃいませ」  上品な着物姿の女性が二人を出迎え、乃木が名を告げると部屋へと案内される。  そこは中庭の見える一室で、とても静かだ。  こういう所には慣れないせいか、ソワソワと落ち着かない。 「なんか、落ち着かねぇです」  向い合せに腰をおろし、ショルダーバッグを脇に置く。 「はは。何か飲めば落ち着くかも。ビール? それとも日本酒が良いか?」 「あ、俺、酒は苦手なんで、お茶で結構です」 「そうなんだ。じゃぁ、俺は日本酒にしようかな。あ、食事は頼んであるから。苦手なものはないかな?」 「はい。食い物は好き嫌いは特にねぇんで」 「よかった」  飲み物の注文をし、それから暫くし、食事が運ばれて来た。  美味そうな料理を目の前にし、否応なしにテンションがあがる。 「頂きます」  手を合わせて、そういうと、 「召し上がれ」  と優しい微笑みと共に言葉が返る。  たらしめ、と心の中で思いつつ、箸で料理を掴む。

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