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「っ、んごおおおッ……た、つ……もごごごご……っ」
いつの間にやら真後ろに立っていた狐面ヒールのボス。
うっかり本名で呼びそうになった俺の口をでっかい手で俊敏に塞いだ。
「なんでウチの学校に<狐党>と<帝国小町>がいるの?」
「推しの二人が目の前にいる……これは夢……?」
「すごッ、SNSあげたら即イイネつきまくり!」
「これなに!? どーいうこと?!」
「これ……コーイチがヒロインとヒールに取り合いされてる図……?」
みんな大興奮だ。
俺の友達も当然びっくりしてる。
でもね。
一番びっくりしてるの俺ですからーーーー!!
聞いてない、こんなのガチで聞いてませんからーーーーー!?
「ちょ……二人、とりあえず俺から離れよ……?」
「コイツは何するかわからねぇ、俺からは無理だ」
「<狐党>からか弱い帝国民を守るためにも断固として私からは離れませーん」
「ヒィィ……」
ていうか、これ、リアルタイムでネットに流されてんの?
「ヒィィ……!!!!」
「ほら、か弱い帝国民のコーイチ君が拒絶反応起こしてる、早く離れなさーい」
「うるせぇ、コーイチに余分な脂肪押しつけてんじゃねぇ」
「せ・く・は・ら・ぎ・つ・ね」
休み時間終了のチャイム鳴ってんのに誰も教室に戻ろうとしない、駆けつけた先生もどーしたもんか混乱していて……。
いや、一番混乱してるの俺ですからーーーー!!
「コーイチぃ、お前、二人とどーいう関係?」
前から後ろからぎゅうぎゅうされている俺の一番そばでスマホ連写していた友達の質問に答えたのは……佐藤だった。
「コーイチ君は私とヒール狐にとって真性ヒロインなの」
「うッ、かわいッ」
「真性ヒロインって……え、つまり……?」
「あ・い・す・る・ひ・と」
チャームポイントの〈あまあまどききゅん垂れ目〉でウィンクしてみせた佐藤に数人の生徒が失神してぶっ倒れた、ちなみに先生も一人倒れた。
「もう辛抱ならねぇ」
「う、わ、ぁっ?」
巽は力づくで佐藤のハグから俺を奪い取ると、お姫様抱っこ、した。
「「「きゃーーーーー!!!!」」」
なんか人垣の一部からすごい声援が上がった、あと女の先生が二人くらいバタバタ倒れた、だ、大丈夫かな……?
「しょうがないなぁ」
佐藤は腰に両手を当ててオーバーに肩を竦めたりなんかして。
狐面つけて黒スーツと黒ネクタイ、ブレないスタイルの巽は俺を抱えたまま歩き出した。
悪役オーラに圧倒されたみんなが自然と左右に避けていく。
ヒールリーダーは真ん中にできた道を堂々と突き進んでいった。
「さ、佐藤チャン、サインくださいっ」
「握手っ、握手を……!!」
「魔法のドリル見せてくださいっ」
「決め台詞くださいっ」
巽の肩越しに、渡り廊下に残った佐藤がにっこり笑ってみんなのリクエストに応えているのが見えた。
「コーヒーには必ず小さじいっぱい入れてね、君にとって永遠の甘味料、佐藤なり♪」
これぞ本物のヒロイン……なのか……な……?
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