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 そうなれば、恋人である陸斗(りくと)そっちのけに気遣うなんて、少なくとも海里(かいり)にとっては見ず知らずの子供ではない、という事じゃないか。  浅くない付き合いだ。  もちろん、陸斗は全てとは言えなくても海里の性格を知っている。  海里が陸斗の様に「他人なんてどうでも良い」と切って捨てる性格ではない事も。困っている人を放っておけない事も。  なんなら反射的に叫んだにも拘わらず子供の耳からは口を話したのだって、ほとんど海里に染み付いているらしい癖である、話す人間と目線を合わせる、というのが発揮されたからに過ぎないかもしれない。  海里の子供だというのは思い込みで、こじ付けに過ぎないと否定できるだけの要素は、いくらでもあった。陸斗自身も知っていた。  冷静になればその内の1つでも思い出して、些細な嫉妬で済ませたかもしれない。  けれど、今の陸斗は、冷静とは言えなかった。

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