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 子供は海里(かいり)の言葉を無邪気に復唱したけれど、陸斗(りくと)としては聞き捨てならない。それも誰の子供なのだろうと話していたような、このタイミングとなれば尚更だ。  慌てて勢い込んで否定の言葉を口にすれば、必死な陸斗と対照的に、軽くあしらうように海里の手が振られた。 「そんなの、言わなくても分かってるっつーの」  海里の目が陸斗を見ていたのは、それきり。また子供の方を見てしまう。意識も子供に向けられているのは、傍目で見ていてもハッキリ分かった。  多分、放っておかれているってワケではない。  頭では分かっていても、心から納得できるかと言えば出来ていない。どうしたって放っておかれていると思われてしまうし、海里を盗られたようにも思えてしまう。  子供じみた嫉妬。どっちが子供が分かったもんじゃない。  そう頭の片隅では思いながらも、つい、少年を睨みつけてしまう。小さな子供なら確実にギャン泣きするだろうし、大の大人でも思わず怯えそうな眼力。  しかし少年は気付いていないのか、よっぽど肝が据わっているのか。海里の方をまっすぐに見つめたまま、時折身振り手振りを交えて、楽しそうに話していた。  子供が可愛いと言う人間がいる。けれど陸斗は今まで意味が分からなかったし、こうして初めて間近に子供を見た今でも分からない。むしろますます分からなくなった。  こんなの、気持ち悪いだけじゃないっすか?  海里にバレれば、さすがに怒られそうなことを考えながら、陸斗はだらしなく深く腰掛けていたソファーに、完全に寝ころんでしまった。  いわゆる、ふて寝。  普段ならすぐに気付いて「仕方ないな」と構ってくれる海里は、少し微笑むだけで少年に構ったまま、結局陸斗の所に来てはくれなかった。

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