海里(かいり)は料理が上手い。 　料理の腕を抜きにしても、恋人が作ってくれる料理というのは嬉しいものだ。陸斗(りくと)だってそれは同じ。海里が作る料理を食べられる自分は幸せだと思っていたし、海里本人にも感謝の気持ちを伝えていた。 　海里にばかり甘えていないし、手伝うこと、片付けをすることはもちろん、陸斗が料理をすることだって珍しくはなかった。 　世の中、作ってもらうのが当たり前だと思って何もしない、「ありがとう」の言葉もない人間は、少なくないらしい。 　そんな人間と比べれば、自分で言っても良いんじゃないかと思えるほどに、陸斗は「良い恋人」だったと思う。 　良い恋人、だった、と。 　でも今は。今の海里の料理は。今の海里は。