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「ほら、誰も盗ったりしねぇから、落ち着いて食えよ。な? 空斗(そらと)」  口の周りをケチャップでべちゃべちゃに汚して、慌ててハンバーグを食べる子供に、海里(かいり)はやさしく注意しながらティッシュで口周りを少し拭った。  残りは自分でやるようにとティッシュを子供に渡して、自分の口を拭く真似をすれば、子供もそれを真似してから、誇らしげに笑う。  口周りは綺麗になったが無駄だ。海里のやさしさと面倒見の良さ、根気強さを知っていても、「よくやるっすねぇ」と思ってしまう。感心よりはもう、呆れの方が圧倒的に大きい。 「うん、綺麗になった。空斗は偉いな。あとは、ほら、誰もお前の分を盗らねぇし、おかわりも沢山あるから落ち着いて食べるだけだ。な?」  玄関前に置かれている子供を見付けてから、1ヶ月が経っている。  放置するワケにもいかないしと保護して面倒を見る事を決めたけれど、あれから今日までなんの音沙汰もなかった。  子供を探しているという話も聞かないし、もちろん、子供の親らしき人間が陸斗達にコンタクトを取ってくることもない。  保護している間名前がないのは不便だし、「お前」で通してしまっては子供が可哀想だから、というのが海里の主張。  陸斗としては「お前」でも、なんなら「これ」でも構わなかったけど、海里の言葉はできるだけ叶えてあげたいから、意義は唱えなかった。自分が呼ばなければ良い話だし。  結果として子供は海里から空斗と呼ばれることになって、今ではこの家にすっかり馴染んでいるように思う。  陸斗と海里の物だけだった2人の部屋に、子供服やおもちゃといった要らないものが増えた。  料理も、ほとんどがすっかり子供好みのメニューで、子供向けの味付けだ。

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