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 たとえば今食卓に並んでいるハンバーグも、そう。  今までなら、まだまだ大学生で食べ盛りの陸斗(りくと)にあわせて、肉をがっつり感じられるボリューミーなものだったし、ソースにしても、ちょっとしたお高いレストランに並ぶんじゃないかと思うくらい、凝った物を作っていた。  それが今では、お子様ランチによく添えられいるようなハンバーグ。子供が好みそうで、子供の歯でも噛みやすそうなヤツ。ソースも同じで、子供が好きそうな甘口のケチャップ系ソース。  本当、子供がはしゃぎそうなファミレスのお子様ランチそのまんまだ。  それを簡単に再現してみせる海里(かいり)の腕は凄いと素直に思う。  だけど、それはそれだ。他人としては、友人としては、素直に凄いと褒めることが出来ても、恋人としては面白くない。  ただでさえ嬉しい恋人が作ってくれた料理。  それも、料理が得意な海里の作ったもの。味付けが子供向けになったところで、今まで通り美味しいし、大人の口でもとても美味しい。  陸斗は海里の料理が好きだった。いつも感謝をしていた。けれど、今は、どうしても好きになれなかった。  もちろん、海里はよく陸斗の好物も作ってくれる。陸斗のために作ってくれることもあるし、同じものを作っても、陸斗の分だけ味付けを変えてくれていることもある。  1品余分に作る手間を、味付けをわざわざ変える手間を、陸斗とて分かっているのに。今ではそんな風にして並べられた自分の好物にさえ、素直に喜べない。欠かさなかった礼も言わなくなったし、手伝いや片付けは、やらなくなっていた。

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