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 食事中にしたってそうだ。  今までは2人で色々な話をしていた。男子大生らしい、くだらない話もあったし、恋人同士の甘い会話だってあった。  海里(かいり)も笑ったり、頬を赤らめたりとしていたから、楽しいと思っていたのも、陸斗(りくと)の独りよがりではないだろう。  だけど子供が来た1ヶ月で、それも変わった。  食事中の、そういう恋人っぽい会話はなくなって、海里は子供につきっきりだ。  夜だってそうなんだから、陸斗が多少苛立ったって、悪いなんてことはないはず。  そうした苛立ちを隠そうともしないで2人を、ほとんど睨むように見ていたからかもしれない。陸斗は普段であれば気にも留めないような、空斗(そらと)の視線を感じて、睨む力を強めた。  ああ、イライラする。 「なんすか」  漏れ出た声は、露骨に不機嫌なものだった。でも、仕方ない。陸斗はそこに一切の反省を抱かない。  空斗が可哀想だ。空斗に悪影響だと訴える海里の顔はしかめられたけれど、今では慣れた。いちいち心を痛めたり、海里はやさしいから、なんて思わない。文字通り無関心にスルーする。 「でも、陸は海ちゃんのお料理が好きだから、とられちゃうかも……」  子供らしい心配といえば、子供らしい心配だろう。  確かに陸斗は海里の料理が好きだったし、海里のこととなれば、大人げがなくなることも自覚していた。  ただ、そんな言葉も、今では陸斗の苛立ちを増すだけ。  それは今までのような、「海里の料理はオレの物なんだから当たり前じゃないっすか」といった、恋人としての独占欲からじゃなかった。

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