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「はあ? 盗らねぇっすよ。お前が行儀悪く食い散らかしたモンも、こんなガキ向けのまっずい味付けにも、まるでもって惹かれねぇんで」 「陸斗(りくと)!!」 「もうオレ、いらねぇっす」  海里(かいり)がくれたものに対して、こんな言い方をしたのは初めてだった。  それは、海里が失敗らしい失敗をしたことが滅多になかったからかもしれない。でも、陸斗は海里がくれたものはなんでも嬉しかったし、それはこの先も変わらないと思っていた。  珍しく海里が失敗して焦がしてしまったハンバーグは、そりゃあ苦かったけど。珍しく盛り付けを派手に失敗したオムライスは、お世辞にも綺麗とは言えなかったけど。  料理だけじゃない。今では編み物も完璧だけれど、初めて作ったというマフラーは、どこか歪だった。本人は捨てようとしていたけど、土下座の勢いで頼み込んで、なんとかゲットした。今じゃ海里に頼み込まれて新しく作られた見た目も綺麗な物を使っているけど、その時貰ったマフラーは、今でも大切にとっておいてある。  出来の良し悪しじゃないんだ。海里がくれたから嬉しいんだ。そう思っていたのに。  派手な音を立てて席を立った陸斗に対し、海里の責めるような声は、罪悪感より苛立ちを募らせる。どうせ海里が責めるような言い方をしたのは、空斗(そらと)に対する接し方を怒っているからだ。  ああ、イライラする。  こんなマズいもの、もういらない。陸斗は吐き捨てるように言って、半分以上残ったハンバーグや他の料理もそのままに、席を立っていた。  その時海里がどんな顔をしていたのか、見ているだけの余裕は、もう、陸斗からなくなっていた。

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