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なんで。なんでオレが、そこまでコイツに気を遣わなきゃいけないの。
当たり前の様に言う海里 が、陸斗 には分からなかった。もちろん、やさしい海里が空斗 に気を遣ったというのは、分からなくはない。分からなくはないけど、でも、やっぱり、陸斗と海里は恋人同士なのだ。別に空斗の前で事に及ぼうと言ったんじゃないし、そもそも空斗に見せつけるつもりは陸斗にもないのに。
空斗がいるからダメだなんて、おかしい。
「な、なに言ってるんすか? 海里。んな、ガキの前でするってワケでもないし、関係ないっすよ」
「当たり前だろ!? そんな事企んでるんだったら、流石にお前を追い出すぞ? ……そういう空気って、家の中に残るもんだろ。やっぱ、人様の子供を預かってる身で、そういうの、止めた方が良い」
海里が本気で言っていて、どう頑張っても付け入る隙がないっていうのは、陸斗にはよく分かってしまった。
分かってしまったし、陸斗はそれなりにイライラしていて。
「まあ、オレの部屋にもベッドはあるしね。海里がそんなに言うなら、もういいっす。オレはガキのおもりなんてできないし、これから自分の部屋で寝るね。海里も自分の部屋のベッド、使って」
売り言葉に買い言葉。と言うより、陸斗の一方的な逆ギレかもしれない。
おまけに、自分達のベッドを空斗に使われたくないあまり、余計なことを言ってしまった。予想以上に冷たかった自分の声にはっとしたけれど、口に出してしまった言葉は、もう戻せない。
結局陸斗は、「拗ねています」という態度そのままに自室の扉を乱暴に開け閉めして、その日はそれきり立てこもったのだった。
それでもまだ、その日は海里の言葉が追いかけてくれていたけれど。
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